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第13話

『シロガネ』らしい繊細な装飾が施されてはいるが、いかがわしい男にオーダーされた、いかがわしい品。 用途を思い浮かべれば、俺の眉間のシワは深くなるばかりだ。 「完成品はガイハン殿にあわせているけれど、試作品は師匠にあわせ作られていると伺いましたが。本当ですか?」 クロムの言葉に俺は耐えるように目を瞑った。 これらをどう使うのか、クロムが何も知らずにいてくれないかと願っていたが、そんな都合のいい話にはならなかったようだ。 穏やかに微笑みすら浮かべて話すクロムだが、その声には隠しようのない怒りがにじんでいた。 きっとクロムに失望され、軽蔑されたことだろう……。 そう思っただけで心が凍え、手足も冷たくなっていく。 それ以上何も考えることができず、表情をうごかす事もできない。 しかしまるで平然としているようにすら見える俺の態度が、クロムの苛立ちを煽ってしまったようだった。 「採寸の様子もガイハン殿は私に嬉しそうに語ってくださいました。たとえば今日納品をしたこちらはブジーと呼ばれる道具だそうですが、その道の店では既製品も入手できるけれど、自分好みの仕上がりにするために……」 「ガイハン様が何を言ったかは大体像像はつく。しかし、仕事だ。それ以上でも以下でもない」 言葉を遮り、俺はクロムに背中を向けた。 けれど、クロムはその道具を弄びながら俺の正面に回り込む。 「師匠の仕事のやり方を……弟子が学ぼうとしているだけです。私もこのような仕事を請けた場合は、師匠と同じようにすべきなのでしょうね」 「……その…必要はない」 「どうしてです?」 「……好きで請けた仕事じゃない。それに……もう、請けない」 話はこれで終わりだとばかりに立ち去ろうとするが、逆にぐっと腕を掴まれて、力任せに物置部屋に引き込まれてしまった。 「こちらも、仕上がりをみていただけませんか?」 製品が飾られていた棚に、ガイハンにオーダーされた品の試作品が並べられていた。 やはり鍵のかかった箱に入れていたはずのものたちだった。 そのうちいくつかは、顔を映すほどに綺麗に磨き仕上げられている。 これらの試作品にも繊細な細工が施されており、一見すれば美しい置物か装飾品と思われるかもしれない。 しかしその優美さに反してその用途は悪趣味そのものだ。 蛇が巻き付いたようなデザインのチョーカーは、人肌で暖まると蛇がゆるゆると動いて装着した人物の首を絞める。 同じく蛇が巻き付いたようなデザインの少し小さな指輪のようなリングは、指ではなく胸に装着するもので、温もりで動いた蛇はその口で乳首を噛み締めるのだ。 華麗な彫刻がなされたボールが付いたクリップ状のものもやはり胸に付けられ、装着者を飾ると共にその重みで痛みを与える。 優美な腕輪などに見えるアクセサリーも全て拘束具のたぐいだ。 細かなチェーンがしゃらしゃらと何重にも巻かれた豪奢なネックレスも、その本来の役割は首輪だ。 装着者を美しく飾りながら拘束していたぶる。 全てがガイハンの性癖を満たすためにつくられた、悪趣味な用途のアクセサリーたち。 「美しい装飾品です。素晴らしい。師匠の美意識が高く反映されている。これらを磨きながらその美しさに、私は心が沸き立ちきました。しかし……」 クロムが棚におかれた複雑な形状の品を手にする。 耐えきれず、俺は床に視線を落とした。 「いかがわしい用途とはいえ、あれらは装飾品と言えます。けれど……。師匠、コレの用途を教えていただけませんか?」 「………」 ガイハンには加虐と被虐の両方の趣味があった。 この華麗かつ悪趣味なアクセサリーで飾り立てた者の首輪を引きながら、性具で自らを虐めさせる。 そのための性具まで作らされた。 クロムは俺の返事など期待していないのかもしれない。 ソレを持ったまま、ぐいと詰め寄られて、俺は背後にあったソファに倒れ込むように座った。 「これを造ったときの採寸の様子を、身振り手振りをつけて非常に嬉しそうに聞かせられました。しかし、私はガイハン殿にただからかわれただけだと思いたい。……師匠、貴方の口から本当のことを教えていただけませんか」 ガイハンが何を語ったかはわからなかったが、多少大げさに話していたとしても、きっと大筋で本当の事を話しているはずだ。 けれど、クロムにそれをどう伝えるべきか。 いや、それよりも、この状況からどう抜けだせばよいのか。 考えても、考えてもわからず、結果無言を貫くこととなり、それがまたクロムを苛立たせていた。 「わかりました。明確に言葉でお答えが戴けない場合は、見て考える。師匠の下で私がこれまでずっとやってきたことです」 クロムはいくつかの試作品を手にすると、ソファに座りこむ俺に向き合った。 「試作品であるにもかかわらず、この留め金に施された細工のなんと美しいことか。私は感動しました」 目の前に差し出され、俺はそれを受け取ろうと反射的に手を出した。 けれど、クロムは腕輪であり手錠でもあるそれを俺の手首にカチャリとはめた。 「この軽い装着感に対し、しっかりと動きを制限する構造、また極力装着者に負担がかからないような仕上げ、本当に素晴らしい」 クロムがその腕輪を誉める。 きっと本音なのだろう。うっとりとしたような表情で、手錠をつけた俺をとても満足そうに眺めた。 「対となるこのアンクルバンドも大変美しい。また、こちらは留め方によって拘束の方法が変えられる工夫も素晴らしい。これは、師匠が考案されたのですか?」 そう聞かれて首を横に振る。 拘束の方法やバリエーションなど、俺が知るはずもなかった。 すべてガイハンの要望だ。 俺の工夫はと言えば、試作品をつくって試行錯誤し、求められた機能と華麗さを両立させたことだ。 「これは、どう留めれば良いのですか?」 さっきまで、腹にたまった怒りを静かに俺に向けていたクロムが、製品ヘの純粋な興味に目を輝かせる。 いつも仕事中に見せるような表情に、俺も素直にアンクルバンドの装着の方法を教えてしまった。 止める間もなくカチャカチャと俺の両足にそのアンクルバンドがはめられていく。 無骨な俺に似合うとは言いがたい、優美な二点のアクセサリーをつけた姿を、クロムが満足そうに眺める。 細やかな造りの装飾品はその見た目も装着感も軽やかだ。 だが、使用されているのは縛された囚人には不釣り合いな貴金属で、少量でもずしりと重い。 完成品より使用する貴金属の比率は少なく軽いが、それでも装着しているうちにだんだんとそのその重みが身に沁み始め、身体もそして心もズブズブと沈んでソファに埋まっていくようだった。 クロムはさらにネックレスを手に取った。 「こちらは装着すると首が絞まってしまう構造ですが、絞まらないようにすることは可能ですか?」 「……これは試作品だから」 「駆動はするけれども絞まることはないのですか?」 あくまで駆動率を確認するために試作したものだ。確認の度に首が絞まっていては仕事にならない。 それに、完成品も死ぬほど首が絞まるわけではない。 それがわかると、クロムはそれもまた俺の身体に装着してしまった。 優雅な装飾品が、質素な仕事着の俺の貧相さを際立たせる。 けれど、クロムはそんなこと気にも留めず、興味深げに首もとの蛇が動くのを眺めている。 それでも俺の表情は硬く、まだ惨めな内心はさらけださずに済んでいるが、自分の秘密とも言えるいかがわしい装飾品で拘束される姿を、一番知られたくなかったクロムの目前に晒してしまっているというのが、どうにも情けなく、いたたまれない。 「では……次は、これです」 そう言って、クロムが再び手にした物に、俺はおののいた。 先ほどの、少し複雑な形状をした物体…ガイハンの指示にそって作った性具だった。 「クロム…それは………嫌だ」 後ずさりしようとしても、ソファの上では後がなく、また、拘束具を身につけているため、ズルズルとソファの端に寄るのがやっとだった。 「ガイハン殿から使い方を聞いてはいるのですが、果たしてこのような形状で、ほんとうにおっしゃっていたような使い方ができるのか。確認しないといけませんよね」 クロムの目が暗く光った。 「クロム……お願いだ…やめてくれ」 ソファの端で束ねられた両手をふって、弟子を制止しようとするが、重い腕輪で束ねられた手など簡単に押さえ込まれる。 「大人しく、していてくださいね」 最近はあまり出すことのなかった、貴族の傲慢さを見せ俺を威圧した。 そして、手早く腕輪とアンクルバンドを金具で繋げられ、さらに動きを制限されることとなってしまった。 その間も俺は制止の言葉を言い続ける。 けれど、クロムは嬉しそうに微笑むばかりだ。 「以前よりは口数も増えましたが、師匠がこんなに言葉を発するのはとても珍しいことですね」 まるで楽しいことでもあったかのように明るく言われ、そんなクロムの態度に俺は混乱する。 「クロム……クロム、お願いだ」 「わかりました。願い通りすぐにコレを貴方の中へ埋め込んでさし上げます」 不足する言葉を都合良く足して、クロムは動けない俺の衣服をはいだ。 手足を拘束され、首輪を付けられるくらいまでは、不本意ではあってもどこか諦めのような感情とともに受け入れてしまっていた。 けれど、まさかここまでされるとは思わなかった。 それまでは、どちらかと言えば遠回しかつ淡々と苛立ちを俺に向けていたクロムから、グッと高ぶる熱気が伝わってきたことに驚いた。 拘束されているために着衣は部分的に脱がすことしかできないが、それが余計にクロムの興奮を高めてしまったようだ。 純粋で清廉なクロムと、性的な興奮というものがどうにも結びつかない。 いかがわしい道具にあてられたのだとしても、その被験者として目の前にいるのは貧相な俺だ。 マイナス要素としか思えない。 しかしクロムは、むき出しとなった俺の太ももをゆるゆるとなでる。 その手の火照るような熱さに身震いした。 そして、さらに薄く硬い双球へと手が伸ばされる。 当然俺は必死に抵抗をした。 けれど、手足を重い拘束具で束ねられた状態では、装飾のための華奢なチェーンがしゃらしゃらと美しい音を立て、クロムの耳を楽しませるだけだった。 クロムが手にする性具は、男性の後穴に差し込み、快感を引き出すためのものだ。 差し込む深さや角度によって、違う場所を刺激できる。 持ちやすさと当る角度を考慮して、複雑な角度に曲がり、いくつもくびれとふくらみがあった。 これも既存の性具をガイハンが自分好みにアレンジし、作らせたものだった。 「無理だ……クロム……お願いだやめてくれ」 「大丈夫ですよ。頼みもしないのにガイハン殿が非常に丁寧に使い方や注意点を教えてくださいました。激しく動かしたりしませんし、準備も……ほら、これで良いのですよね」 手足を束ねられたままソファに伏せるように転がされれば、そんなつもりはなくともむき出しの尻を突き出すような姿勢になる。 そして、とろみの付いた液体を尻にぬり込められた。 これは性具の滑りを良くするためのものだ。 あの箱の中に共にしまっていた。 どうやらガイハンはクロムに本当に事細かに手順を教えたらしい。 あの、クロムの美しい指が、俺の尻をまさぐっている。 信じられなかった。 そしてそのヌルヌルと柔らかく穴をなぞる感触にゾクリと身震いをした。 俺はクロムにやめてほしいと懇願し続けた。 重い拘束とままならない体勢に、俺は自力で逃げることは半ば諦め、クロムが思いとどまってくれることをひたすら祈るばかりだった。 そしてとうとう性具の細い部分がツプリと後穴に差し込まれた。 侵入してきた硬く滑らかな感触に身を縮める。 それをクルクルとまわすと、なだらかな膨らみによって、入口が優しくほぐされる。 「……っっ」 無遠慮にそして驚くほど滑らかで大胆に金属がヌルヌルと入口を動き回る感覚に息をつめた。 「先端は細くともすぐにこんな膨らんでいて入るものだろうかと思っていましたが、驚くほどすんなりと呑み込みましたね」 すんなり入るよう形状を工夫をしたのだ……そんな事を言えるはずもない。 なのに……。 「今の形状にたどり着くために、師匠のココは一体何度この性具をくわえ込んだのですか」 手を止めることなく、性具を抜き差ししながら耳元でクロムが囁く。 「そんなことは……」 「ガイハン殿に何度も突き返され、きちんと試作して確認するようきつく言われたのでしょう?」 「………」 「急に使用感が良くなり、何故かと聞いたときの師匠の顔が忘れられないとガイハン殿がおっしゃってました」 「……」 無表情を貫いたつもりでも、どうしても感情は漏れる。 ガイハンはデリケートな部分に使用するものだからと事前に試作で使用感を確認して、制作することを強く求めてきた。 その分価格が高くなることなど全くいとわない。 ゆえに立ち上げたばかりの工房を支えるためには手放しがたい客となったのだ。 「ふっ……く…………」 クンとさらに深く性具が突き入れられる。 滑らかな金属に内壁を撫でられ、恐怖で身体に力が入らない。 こんな道具を深く根元まで尻にくわえ込んだみじめな姿など、クロムに晒したいはずはない。 けれど、侵入を拒もうとする動きが、クロムには開いた入口が悦びうごめいているように見えてしまっているようだった。 結局、道具でほぐされた入口は、あっさりと性具の太い部分まで受け入れてしまった。 いや、こうやって効率よく入口と中をほぐすための道具なのだからそれも当たり前なのだ。

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