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第14話

ゆっくりとクロムが性具を動かす。 実際はガイハンに何度も調整を言いつけられない限り、自分の身を使ってまで品質を確認するような事はなかった。 けれどこれは何度も直しを言いつけられたあげく、効果を確認するために俺の身体に合わせて造った試作品だ。 だから……。 「っっっふうっっ……クロム……もう……もうわかっただろう?やめてくれ……」 声を絞り出して訴えた。 金属に後穴を広げられなぞられる感覚は苦しく、けれどそれ以上に恥ずかしく、さらにそれら以外の感覚を呼び覚まされそうで怖かった。 「まだです。それに……ねだるように腰を動かしながらやめてくれなどと言われても、やめようという気にはなれませんね」 「そんな……ねだってなどっっ………!」 クロムは性具の持ちかたを変え、中で滑らせるように動かし始める。 「っっっ!!」 ゾクゾクとした熱が中から沸き上がった。 『道具が的確にあたるか』『不快感はないか』『求められる動きができるのか』そんな確認をするために、不本意ながら自分でこの性具を身体に埋め込んだことはあった。 けれど、こんな風に快感を導きだすように使ったことなどなかった。 「ふぅっっクロムっ…やめてくれ……ほんとに……やめて……!」 未知の感覚にじっとりと汗ばんだ腰をクロムが優しくなでる。 「ああ……師匠……自らこんなに腰を振って。やめろとおっしゃいますが、赤く染まった肌で貴方がどれだけ興奮しているのか一目瞭然ですよ」 「ちがう…こんな……っっっ……く…んんっ」 否定しようとすると、さらに性具の動きを変えられた。 この性具は持ち方を変える事によって、的確に中を刺激できるようになっている。 快感を引き出す用途で使ったことはなくとも、コレがそこに当った時にどんな感覚を呼び起こすのかは知っていた。 俺はとっさに腰を引いて逃げた。 けれど、それはただソファの端に身を寄せて、完全に逃げ場をなくしただけだった。 「ふぁっっ………!!っっ…っっ!!んぐっっ…んっっっ……」 くぐもったうめき声を漏らす俺の反応を見ながら、クロムが柔く強く刺激を変える。 「ぁくうっ……」 ジュン……と中で甘い熱が広がった。 ひと際強く身体が硬直したその反応を見逃さず、クロムが同じ刺激を繰り返す。 「うう…う……」 ギュッと身を縮めて刺激に耐える。 けれど、そんな抵抗など何の意味も無く、ずるずるとうごめく金属は感じたことのない快感を呼び起こしていく。 ……しかもそれが、弟子のクロムの手で与えられているのだ。 俺が無機質な金属の愛撫で、浅ましく快感を憶え始めてしまっているのは、すでにクロムにも伝わっているだろう。 自らの手の中にある卑猥な性具に犯され、痴態をさらす師匠をクロムはどう思っているのか。 「んんっっ……!」 鼻から甲高い声が漏れた。 「ああっはぁっはぁっっ!」 耐えきれず荒い息を吐き、腰を暴れさせ、与えられる刺激から逃げようとする。 けれど、クロムに片手で押さえられただけで、それは自ら刺激を与える動きに成り果てる。 「ああっっもう嫌だっっクロムっ!お願いだからっ!無理だっ!もう無理なんだっっ!!」 クロムを振り返って懇願するが、やめる気配はない。 それどころか俺の表情を見て嬉しそうに笑い、薄い尻たぶにチュッとキスを落とした。 クロムの唇が俺の貧相な身体にふれるなど信じられないことだった。 しかも嫌らしい性具をくわえ込んだ尻に顔を寄せるなど、あってはならないことのように思えた。 俺を支えていた何かがはじけ飛んだ。 さらにクロムは前にも手を伸ばし、俺のモノを掴むと刺激をし始めた。 すでにソコは後穴の刺激だけで欲望を示すようにゆるく起ち上がってしまっていた。 自分の浅ましさを見せつけられるようだ。 前後同時に与えられる甘い刺激に頭が白んでいく。 「あぐぅぅっ…………んっ…んぁっ……」 俺はクロムの動きに合わせ、みっともないうめき声を漏らし続けた。 「あ……やめ…も…無理だ……ああっ……あぅっ……ぁふ…!」 ぐっと身をこわばらせて耐えに耐えたが、性具の前立腺への刺激とクロムの手淫によって、とうとう精を漏らしてしまった。 放出による快感はあったとは思う。しかし、感じるのは疲労感ばかりだ。 脱力し、荒い息を繰り返す俺を見て、クロムがまた笑みを深くした。 伏せていた身体を横に倒され、そのままクロムの顔が近づく。 息が荒いままの俺の口にクロムの唇が重なる。 何も考えられない。 理解が出来ない。 コレは……キスだ。 なぜ……。 一度離れ、また口づけられる。 口づけられている最中に、クロムが手を放した性具が俺の中をズルリとこすりあげ、ゴトリと抜け落ちた。 その感触に身を震わせる。 舌で俺の唇をなぞるクロムの息が、だんだんと荒くなる。 拘束されて動けない身体を押さえつけ、俺に何度もキスをする。 クロムが興奮しているのがわかる。 こんな俺の痴態でも、若いクロムを刺激するには充分だったということか……。 ぼーっとなった頭で他人事のように思う。 クロムの手が太ももをなでる。 その感触も、まだどこか他人事だった。 けれど、再びうつぶせにされ、腰を持ち上げられた時にハタと気がついた。 クロムは興奮し、自分を見失っている。 本能に突き動かされ、自分が何をしようとしているのか、正常な判断ができているようには見えない。 「まて、クロム、まて……!」 「なんです?」 一応返事は返ってくるがぞんざいだ。 「やめろ、クロム、お前は自分が何をしようとしてるのかわかっていない」 「……かもしれませんね」 「かも……じゃ、ないだろう。私は可憐な少女でもなければ、高貴な夫人でもない」 「何を当たり前なことを言っているんです?貴方を少女と間違える人間などいるわけないでしょう」 「…………」 止めなければと思うのに、混乱でまともに言葉が出ない。 「今まで何年も、こんな嫌らしい性具が貴方の中を味わっていたということが私はに許せない。私の手で磨かれたものを埋め込めば、少しは貴方が自らの愚かしさをわかってくれるのではないかと思いましたが、貴方は私を拒もうとする。私より……ガイハンが良いのですか?」 クロムに指摘されなくても、ガイハンの発注を断れなかった自分の愚かしさは充分にわかっているつもりだ。 それに大切な弟子のクロムよりも、悪趣味なガイハンを選ぶなどありえない。 「……そんなわけないだろう?」 ただ、思ったままに返事をしていた。 「そうですか。では、遠慮なく」 けれど、クロムはそれを同意と捉えた。 「……クロム?……はぐっっっ!」 軽く指で割り開かれた入口に、金属とは違う硬さををもった熱いモノがズブズブと押し込まれていく。 充分にほぐされたそこは、拒むどころか侵入を悦んでいるようですらあった。 身体を硬直させる俺の耳に、熱に浮かされたようなクロムの声が流れ込んでくる。 「ああ…すごい…師匠…師匠…………!!」 ズルズルと中をこすりあげる熱い感触は金属とは全く違った。 逃げることも叶わず、グイグイと押し込まれ、突き上げられる。 クロムが俺の中にいる。 信じられない。 性具で準備ができていたとはいえ、中をいっぱいに埋めたものをさらに奥深く差し込まれ息が苦しい。 「あっあっあぐ…ぐぅ………」 突き上げにあわせ声が漏れた。 うめく俺の腰を掴んでグッグと抜き差しされる。 ジュンと溢れるような濡れた熱に翻弄される。 クロムと繋がってしまったということに恐怖を感じた。 ありえないことだ、とんでもないことだ……。 様々な否定の言葉が頭をよぎるが、混乱した頭は身体にたまっていく熱におされて機能を停止していった。 しばらく好き勝手に揺すられていたが、覆いかぶさり背中から強く抱きしめられると、身体全体がクロムの熱に包まれたように感じられた。 密着した身体が溶け合ってしまいそうだ。 その感覚に心臓をギュッと掴まれたように切なくなる。 「クロム……」 名を呼ぶと、荒い息のまま首筋に吸い付き、逃がさないとでも言うように抱きしめる力を強める。 「師匠……!あんな男のことなど忘れて」 「ん……くっっ……忘れるもなにも……ガイハン様とは……何もない!!」 「採寸と称して身体をさわらせ、随分からかったと……ガイハン殿が……」 「……あの方がどういう……ぁく……つもりだったにせよっっっ……俺にとっては仕事だ」 「先ほどの性具を造るために、あの男の中に指を挿れたと……」 「……ただのっっ採寸だ。どうでもいい。もう、二度とすることはない……。忘れてなどと言いながら……こんな状態で……思い出させるな」 後ろからクロムに揺すられながら、ソファに顔をすり付ける。 仕事だとは思っていても、ガイハンの嫌らしい意図は透けて見える。 不快だが俺にとって数少ない性的接触に含まれてしまうかもしれない。 自分の中をむさぼる相手がクロムだとわかっていても、その顔が見えない状態であの男の話をされると不安が増した。 身体を横に倒され、クロムがまたキスをした。 俺も不安から、すがるようにキスに応じていた。 「あ…あっ……クロム……クロム………」 今自分を満たしているのは、嫌らしいガイハンの性具ではなく、クロムだ。そのことをもっと実感したい。そんな想いを自覚していたわけではない。 けれど俺はクロムにすがろうと拘束された手足に力を入れていた。 クロムは俺の身体の両側に手をついて腰を振っている。 『俺を抱きしめてくれ』 そんな思いを口に出せるはずもない。 ただ、揺すられる衝撃に合わせ、息苦しさに声が漏れるばかりだ。 ままならない身体を、出来るだけクロムにふれさせようと動いた。 それを逃げる動きと勘違いしたのか、クロムに押さえつけられる。 「逃がしません」 そう言われて、何故だか少しホッとした。 「にげないよ…………」 泣きそうな声で答える。 けれど、どう思ったのかクロムはその言葉に顔をしかめた。 ぐっと抱き込まれて、腰を激しく打ち付けられる。 苦しい……。 そして、惨めだ……。 ……きっと、これは罰だ。 後ろめたく思いながらも工房を支えてもらったという恩義で断ることができず、ガイハンのいかがわしい性具作りをいつまでも続けてしまった。 そこにクロムが弟子としてやってきて、もうこれ以上は続けられないと思った。 俺を尊敬し、慕ってくれる純粋なクロムを騙し、裏切っているようでずっと苦しかった。 最後の仕事を終えて、ようやく解放されたと思った。 しかし、あのまま事実を隠し無かったことにしても、クロムに対してどこか後ろめたさが残っただろう。 このことでクロムは俺を軽蔑し、このまま離れていくかもしれない。 けれどそれは当然のことだ。 俺はクロムを失望させた。 激しくぶつけられる俺への怒りを全て受け止めたい。それがクロムを傷つけてしまった俺のせめてもの償いだ。 そしてこうやってクロムに責められ、断罪されて、俺も本当の意味で解放されるんだ。 泣きそうな顔でクロムが俺を追い立てる。 「う……ぐうぅ……」 中を突かれるたびに、ひび割れたようなうめき声が漏れる。 これではクロムもさぞかし興ざめだろう。 苦しい息の中、そんな事を思った。 「師匠……あんな男の事は忘れて」 俺を強く抱きしめながら、クロムが苦しげな声で再び言った。 今ガイハンに捕われているのは俺ではなく、クロムの方だ。 「クロム……忘れるから。大丈夫だ。もう、終わった。大丈夫だから」 朦朧とする頭で、うわ言のように繰り返し言った。 クロムの身体から放たれる熱気が格段に増した。 「はぁっ!はぁっ……師匠!師匠!!」 荒い息を吐きながら、深く浅く己の高ぶりをねじ付ける。 その様子にクロムの頭からあの男の影が消えたことを感じ、ほっとして力が抜けた。 ひと際強く腰をぶつけられ、終わりが近いことを知る。 折れそうなくらい強く抱きしめられ、激しく押し込まれる。 その激しい動きに追い立てられ、甘い熱が俺の中で暴れ始めた。 「あっあっああっ……ああっ!」 たまらずに甲高い声が出る。 「師匠っ……んくあっ!イクっっああっ!イきます………!」 ドクンドクンとクロムが俺の中に欲を放つのが感じられた。 ぐっと膨張し潤うその感覚に、震えるほどの快感を覚えた。 脱力したクロムにのしかかられ、拘束された身体が悲鳴を上げる。 けれど、そんな苦痛もどうでもよかった。 初めての行為にこわばっていた身体から一気に力が抜ける。 中から溢れたモノの感触に尻がヒクつき、さらに溢れる。 何も考えたくなかった。 極度の緊張から放たれホッとした俺は、身体が痛むにも拘らず、猛烈な眠気に襲われそのまま意識を沈めてしまった。 ◇ 目が覚めると休憩室の寝台の上だった。 身体のあちこちがひどく痛んだ。 いくら装着者に負担とならないような造りを心がけたとしても、拘束されたまま激しい行為を行えば負担がかかることには変わりない。 腕輪やアンクルバンドの跡よりも、装飾のパーツとして付いている細いチェーンの跡の方が濃い。 拘束部分にかかる負担は、意図した通り軽減できているようだ。 自分の身体についてしまった拘束具の赤い跡を見て、そんな事を思う。 こんな時に、己の仕事の成果を確認し、満足してしまう自分が少し可笑しかった。 痛みも跡も残っているのに、どうにも現実感がない。 クロムには見限られたかもしれない。 けれど、クロムによって罰を与えられ、贖罪がなされたように感じていた。 身体は重いが、心はどこか軽くなった。 工房の外はすでに暗い。 俺は当たり前のようにクロムの家に戻ってしまっていた。 クロムの姿は見えなかったが、テーブルには俺の食事を用意してくれていた。 腹は減っていなかったが、感謝をして食べた。 そして俺はそのまま自室に退がり、泥に沈むように眠ったのだった。

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