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第19話
「うっ…ふぅうう……」
手だけでなく、クロムの身体をすり付けられて、波のように襲う快感が全身に広がっていく。
身体に全く力が入らないのに、差し込まれた指に反応して後穴だけがキュウキュウと締め付けを繰り返した。
そしてそれがまた快感となって全身を駆け巡る。
ああ、俺は壊れて淫らな悦びしか感じられない身体になってしまった。
クロムの口づけを受けながら、霧がかった頭でそんな事を思う。
「ぁうう…ああ……。ぅううん……」
何をされても緩慢な声が漏れる。
また飾りのついた乳首をおもちゃのように弄ばれて、性も漏らさずにあっけなくイった。
腰を持ち上げられ大きく足を割り開かれ、目前で濡れた後穴にクロムの指が出入りするところを見せつけられる。
後穴をチュクチュクと音をたてかき混ぜられ、悦んだ俺のモノが漏らした精液にまみれたままヒコヒコと揺れていた。
「気持ちがいいですか?」
そう問われて、思考の飛んだ頭を縦に振った。
キモチイイ……。キモチイイ……。
遠い目をしてあ……あ……と声を漏らし、たまに身体をビクつかせる俺をクロムが目を嬉しそうに眺める。
「私のモノが欲しいですか?」
問われた意味がわからず視線を彷徨わせると、
「何も考えず、ただ『欲しい』と言えばいいのです」
と、俺の頬をなでながらクロムが言う。
「ん……。……し……」
「もう少し、大きな声で……」
「……クロム。ほしい」
ぽつりとつぶやいただけだが、きちんと言葉になっていた。
そのことだけはわかった。
「ああ、なんて素敵なんだろう。可愛らしい人」
嬉しそうなクロムに、つられて俺も嬉しくなった。
すぐに指よりも太いもので俺の中がみっしりと埋められる。内壁をズルズルとこすり立てる感覚に身体が沸騰した。
ああ、そうだ自分はコレを求めていたのだ……と当たり前のように思っていた。
「あ…あ…ああ……」
クロムが動くたび、先ほどより切なげな声が漏れた。
そんな俺をクロムが満足げに見つめる。
霞んでいた思考は、もう甘く蜜のようにトロトロに蕩け、流れ出してしまっているようだ。
そのまま激しく腰を打ち付けられる。
「んんぁあああっ!」
中でたまらない熱と疼きが暴れた。
そして自分の穴がクロムを締めつけたぎゅっと熱い感覚に総毛立ち、すぐに全身をだくだくと脈打つような快感に襲われる。
「あ…ああ……んぁ……」
キモチイイ……。キモチイイ……。
「師匠、またイきそうですね。本当に素晴らしい。私を受け入れてすぐにこんなに激しい快感を示してくれるなんて」
「ぁう……ううァア……」
途切れることのない快感の波に、わけもわからず俺はうめいた。
恥も忘れ、クロムに中を押し広げられ、犯される快楽に浅ましく溺れてしまっている。
「師匠、そんなにされては私もすぐに果ててしまいます」
そう言われても、俺は何もしていない。
クロムに与えられる苦しいまでの快感に弄ばれるように、身体が反応してしまっているだけだ。
背が跳ね、ギュウと締め付け、擦付けるように腰が踊る。……こんな動き、俺は知らない。
パッと目を開いて今まで自分が目をつぶっていたことに気付いた。
そのくらい自分の動きをコントロールできていない。
目の前に汗で濡れたクロムの顔があった。
「…んぁあ……うぅん……クロム…クロム……」
うわ言のように名前を呼ぶ。
目の前に顔があったから名前を呼んだ。身体があったから腕をまわしてすがった。
そして、気持ちがいいから腰も動いてしまっている。
そんな俺にクロムが幸せそうな表情を浮かべる。
するとつられて俺も笑っていた。
「師匠、愛しています」
クロムにまた口づけられる。
けれど、頭は霞みながらも何となく顔をそらしてしまった。
クロムの口が追いかけてくる。
けれど、また避ける。
「なぜ口づけを避けるのです?」
少しふて腐れたように聞かれてもよくわからない。
「……ん……ぁふ……ちがう…‥」
よくわからないまま口づけを拒みながらも、もっともととクロムの熱を求めて身体が踊る。
やっぱり俺は頭も身体も壊れてしまったに違いない。
「何が違うのですか?」
「……んぁ…ふつうは……師匠に……こんなこと……しない」
「…………私たちは……恋人です」
まるで言い訳のようにクロムが言った。
「ん…ぁっぁああっ!ちがう……」
「違いませんっっ!!」
足を肩にまで押し付けられ折り畳まれた俺を、クロムが激しく追い立てる。
頭は全くまわっていない。何で急に自分がこんな事を言い出したのかもわからない。
「んぁああっっ!あァああ……!」
乱暴に扱われても馬鹿みたいに身体は悦びを示し、また液を漏らさずに後穴でイッた。
「貴方が何と言おうと、私たちは恋人です」
苛立ちを見せて、クロムが荒々しく口づける。
「んあぁっぁっっ!ならっ……ああっ!なぜ師匠と呼ぶ?クロムにとって……俺は……ししょうっ……ぁっ……ん!」
口づけの隙間から放った言葉にクロムの動きが止まった。
そして俺の首筋に顔を伏せる。
過敏になっている俺の身体はそんな動きにさえ淫らに震えた。
クロムが動かなくとも、さらなる刺激を求るように後穴が勝手にクロムのモノをキュウキュウと締め付けてしまう。
淫らな疼きから気をそらすような、小さな囁きが耳に吹き込まれる。
「…て……ます…。……」
その言葉を理解しようと、俺の頭はすこしだけ動き始めた。
ちゅ……ちゅ……と耳元にキスを散らすクロムと一瞬目が合う。
けれどまた顔を伏せてしまった。
「クロム……よく……聞こえなかった。もう一度」
俺の言葉にクロムが顔を上げる。
顔が赤い。
そして、珍しく恥ずかしそうに目をそらす。
何度か目を彷徨わせた後、口をぱくぱくと動かして、意を決したように俺の目を見つめる。
「その……愛しています、サソラ……。私を……拒まないでください」
初めて俺の名を呼んだクロムが恥ずかしそうにまた顔を伏せる。
そんな初心 なクロムの仕草に、俺の胸も信じられないくらいドキドキと高鳴った。
「サソラ……その……愛しています。生意気だと……思わないでください。貴方は……私の恋人なのだと………認めてください」
俺の鼓動は強く打ち続けたまだが、急に気弱になったクロムが可笑しかった。
思わず、なぐさめるようにその背中をなでる。
「クロム……なぜ急にそんなに気弱に?」
「それは…ですから、大切な貴方を師匠ではなく『サソラ』とお名前で呼ぶのですから……」
しどろもどろでさっぱりわからないことを言う。
「恋人だと言いながら、名前を呼んだくらいで……?」
そう言うと、ふて腐れたような顔をしてちょっと俺を睨んだ。
「わかっているのです。未熟な私など、恋人として全く不足であると。一人勝手に恋人だと言い張ってみたところで、私は貴方の弟子であり、若輩者です。ですが……。いつか私も貴方と肩を並べ『サソラ』と、堂々と名前で呼べるような男になるつもりです」
「……だが、その間に俺も年をとる。いつまで経っても俺の目にクロムは若く写るだろうな。そんな事を言っていたら、堂々と名前を呼べる日などきっとこないだろう」
俺の言葉にクロムはがっくりと肩を落とした。
やっぱり俺は、クロムに弱い。
目の前でこんな可愛らしく可哀想な姿を見せられたら………自分でもどうにもならないくらい愛おしさがこみ上げて、抱きしめ、なぐさめたくなってしまう。
「クロム、俺の名前は親兄弟だって呼ぶ。一人前と認められなければ呼べないわけじゃない」
そう言って、クロムの髪をなでた。
とはいえ、親兄弟は遠く、実際はここ何年も名前を呼ばれたことなどなかった。
「………」
クロムは顔を上げるが、俺の意図をはかりかねたように瞳を揺らす。
そんなクロムを抱きしめた。
「工房の中……いや、仕事中は必ず師匠と弟子の関係を守ること。それだけは固く約束してほしい」
俺の言葉にクロムが目をぱちぱちとさせる。
けれど、少しづつ、俺を抱き返す腕の力が増していく。
「……今は……仕事中ではありませんね」
「……………そう……だな」
大切なものを扱うように、クロムの手が俺をなでた。
「……サソラ……」
「……ん」
名前を呼んで、触れるだけのキスをする。
「愛しています。サソラ」
「……」
深く口づけられ、クロムに何も言葉を返せなかった。けれどクロムは俺の表情だけで満足したようだ。
俺を貫いたままのクロムが中でグンと力を増した。
それだけで俺の身体はさっきまでの熱い快感の波を思い出す。
「サソラ……私の……サソラ」
「ん…はぁあ……あ……う……」
すっかり熱を取り戻した身体を互いに擦付けあった。
名前を呼ばれるたびに、クロムで自分が溶かされていくような気がする。
「ふっくぅぅっ……クロム…んぁ……あっっクロムっまたっっイく……!」
前をすり立てられ、中で出されてその快感にうち震えた。
ここまででも俺には充分すぎる行為だった。
けれど、まだ力を保ち続ける若い雄を抜かずにそのまま振い続け、我を忘れたように求めむさぼるクロムを俺は止めなかった。
クロムが激しく口づけながら、深く腰を打ち込み俺の中に再び愛を注ぎ込む。
「ア……くっ…サソラ……んん………」
二回目のクロムの放出に、俺も共にビクビクとイってしまった。
「はぁあ…あはぁあっっはぁあ………」
俺の中から一旦出て、共に荒い息を整える。
ヒクつく後穴の動きに合わせ、グプリと俺の中から液が漏れた。
身じろぎをすれば、またクプと恥ずかしい音をたて溢れた液がシーツを濡らす。
その生暖かく尻を濡らす感触が、少し冷静になった頭につい先ほどまでの自らの痴態をまざまざと思い出させる。
クロムに追い立てられたばかりではない。
俺もみっともなくすがって、求めて、自ら足を開いた。
いくら何でも……。
クロムに初めて名前を呼ばれた。その事以外の記憶を全て消してしまいたい。
なのに、また俺の身体を愛撫し始めたと思ったら………。
「クロムっ!もう、無理だ!」
「あと、もう少しだけ」
「俺はもう無理だ。そんなに若くないんだ。もうとっくに限界を超えている」
「ほんの少しだけですから」
クロムがしつこく食い下がる。
「…………なら、あそこにクロムが一人でも満足できるような性具もあるだろう……」
クロムが性具を取り出した箱を指差した。
「そんな……私は快感が欲しいわけではないのです。貴方に包まれたいのです」
俺の突き放した言葉に、クロムは可愛らしく甘えてきた。けれどそんな事で流されるわけにはいかない。
「……俺だって快感など求めてなかったのに……あんなもので……」
「あれらは、サソラの形に合わせ設計された試作品ですから。サソラの身体で確認をするしかないでしょう」
「………」
俺に合わせたからと言って、他人が使えないわけもないし、そもそも身体で試さずとも装飾の動作確認は出来るはずだ。
かなりおかしなクロムの理屈に言いたいことは色々あるが、何から言うべきかと薄く口を開いて探すばかりで肝心の言葉が見つからない。
俺の無言を継続の了解と受け取ったのか、クロムがまた始めようとしてしまう。
けれど、そんな事をしたら、明日は間違いなく仕事にならない。
「クロム……破門されたいのか?」
「そんな、サソラ、今は師弟ではなく恋人同士ではないですか……」
「そ……そうだが……。その……えーっと、明日の仕事中の俺が、破門をするぞ」
「………ならば、明日貴方が仕事を出来ないようにすればいいのですか?」
クロムが俺に覆い被さり、顔の横で押さえつけるようにして両手を繋いだ。
こんなバカな台詞に、胸をドキリとさせてしまった自分が情け無い。
「クロム、そんな子供のような聞き分けのない態度を続けて、俺の恋人でいられると思っているのか?」
「それは……」
情けない顔をして、しぶしぶとクロムが引いた。
聞き分けのよくなった恋人の額に、感謝の気持ちを込めそっとキスをした。
すると、クロムが慌てている。
「……?どうした、クロム」
「あ、そ、その、恋人に、このように額にキスをされるなど、初めてで……その、いいものですね」
今まで散々俺に恥ずかしい思いをさせたくせに、額へのキスくらいで挙動不審になるクロムが不思議だ。
「クロム、本当に俺と恋人でいたいと思ってくれているなら、節度は守ってくれ。繰り返すが、俺は若くない。クロムの求めるままにこのようなことをしていたら、クロムとの交わり自体を嫌になってしまうかもしれない」
「そっっっ!それは困ります。いや、性欲を満たしたいだけというわけではないのです。けれど、身体の交わりを通してでしか感じられない繋がりのようなものもがあって……ですから。嫌だなどと……私を拒まないで」
眉尻を下げて懇願するクロムをたまらなく愛おしいと思った。
俺は、いつの間にかクロムの心を受け取ることに抵抗を感じなくなっていたようだった。
「だったら、俺が拒みたくならないよう気をつけてくれ」
自分の言葉が可笑しかった。
つい先ほどまで、クロムの気持ちを思い違いだと、かたくなに拒み続けていたのに、今では心も身体も出来ることなら全て受け止めたいと願っている。
「はい、わかりました。貴方の愛らしいつぼみが痛まぬよう、心がけます」
「な……そ、そういうことじゃない」
「安心なさってください。無理にこじ開けるより、性具で慣らしたほうが……」
「だから、そういうことじゃない」
「舐めるのも良いと聞きましたが、サソラが恥ずかしがってしまうだろうと、遠慮をしておりました。しかし、そちらをお望みならば、私としても喜んでご奉仕させていただきますが」
「……クロム」
どうやって痛い思いをさせず受け入れさせるかにしか頭にないクロムに言葉を失う。
しかも、な、な、舐め………。
クロムの美しい顔があんなところにふれるなんて……。
想像した途端、今日どさくさまぎれに後穴に指を差し込まれた状態で、舌で入口をなぞられたことを思い出してしまった。
しかし、とんでもない発言に閉口した俺の反応を、肯定と捉えたらしい。
「ああ、サソラは性具よりも私の舌をお望みなのですね!」
新たな発見でもしたかのように、明るく言うクロムに目眩がした。
「クロム、そいう話じゃない。あまり長く激しく交わるのは体力的に無理なので、配慮してほしいという事だ」
俺の言葉にクロムが誠実な表情で大きく頷いた。
「わかりました。では、一度は短くして、それでも充分に満足していただけるよう、毎日何かしら工夫を致します」
「……クロム、張り切らないでくれ。毎日は無理だし工夫もこれ以上不要だ」
クロムは不満顔でまだ何かいいつのろうとする。しかし、俺は寝台から立ち上がってそれを遮った。
クロムに金属の棒で与えられた慣れない部分への刺激にかなり緊張してしまっていたようで身体が怠い。
明日になったら今まで使ったこともないような箇所が筋肉痛になるかもしれない。
……いや……明後日か。
疲れきっていた俺はクロムに後始末を頼み、自室に行って寝台に潜り込んだ。
寝台の奥へと寄って、クロムの入るスペースを空けていたのは無意識だった。
まどろみの中、寝台がかすかに沈み込み、そばに温もりが寄り添ったのを感じた。
その温もりに顔を埋めるようにして、俺は深い眠りへと落ちていった。
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