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第8話 二日酔いの朝

スマホのアラームが鳴り、ぱっと目を覚ましたがうるさい音を鳴らし続けているスマホをそのまま、動けずにいた。 身体が重く気持ちが悪い、完全なる二日酔いだ。 うう、気持ち悪い。部屋が回っている、ぐらんぐらんと揺れ景色の中、昨日の事が脳裏によぎった。 あんなに飲んで盛大に酔っ払ったのに、蒼井にキスされたことははっきりと覚えている。 久しぶりのキスは、俺の思考を簡単に占領した。 ゆっくり、俺が逃げられるくらいゆっくり近づいて、、、ああ、体の芯が痺れるような感覚だった。唇が離れたあとの蒼井の瞳がキレイで、俺の頬を撫でた手のひらがとても冷たく優しい。 だーーーー!!やめろ、考えるな!あれはあいつの気まぐれだ。 スマホがまだうるさく鳴っている、重いカラダを動かしアラームを消した。 今日が休みで本当に良かった。 のっそりと起き上がるとベタベタした身体と頭をスッキリさせるべく風呂場に向かう。 動き出すと本格的に気持ち悪さが襲ってくる。真っすぐ歩けない。 大人になってからこんなに酷い二日酔いは久しぶり、最後に飲みすぎたのはいつだったか。 そうだ、あいつの送別会の日だ。 「地方でいい女見つけてゴリゴリのジゴロになってやるぜ」 ふざけながら笑うあいつの子供みたいな笑顔を思い出す。 片想いの相手に見事に振られ、泣きながら強がりを言っていた。馬鹿で可愛いやつだった。 いつもならばそこからあいつのことが頭から離れなくなり胸が痛むはずが、今日は素直に思い出し楽しい昔話を思い出したようにふふっと笑えた。 うそだろ、初対面の気まぐれのキスで俺の数年の不毛な恋が終わったのか。 風呂場につき、洗面台で服を脱ぐ。 酒とタバコの臭いが染み付いた服を脱ぎ散らかしたまま頭からシャワーを浴びる。 暑いシャワーは重くベタついた体と頭を鮮明にしていく。 凄く気持ちがいい。いつものようにシャンプーを付け髪の毛を洗う。 「もう、来ないっていうから」蒼井の声が蘇る。 「もう会えないかと思ったら、凄く嫌だった」嘘をついているようには思えない真っ直ぐな声、あの細くてきれいな指。 もっとなでてほしいと思ってしまった。あんな風に人に見つめられたのは初めてかもしれない。 「ん?キスしようと思って」ぞくっと体が痺れる。ハッとしてゆっくり自分のモノを見るとそこには元気になった俺がいた。 いやいや馬鹿でしょ、なんで俺思い出して立ってんの? キスしようと思ってんじゃねーし、絶対年下だし、めちゃくちゃモテそうだし、慣れているだろう。俺が敵う相手じゃない。 なのに、ついつい思い出し、考えてしまう。 もう、二度と店に行かないと思った決心がブレブレだ。 シャワーの時間は長かった。 落ち着こうと思ってはまた思い出し、深呼吸しては蒼井の煙草の煙を思い出し、思い出しては何度もだーーーっと叫んでしまった。 なんだ、俺は初な中学生か! もうとっくに体の隅々まで洗えてきれいなのに、中々出られずにいた。

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