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第11話 酔いの宵

別れはあっさりしていた。 寂しさも、切なさもなく、また連絡しろよ!と吉岡と二人でテツに絡み、バンバン体を叩き合って見事な酔っぱらい三人組だった。 学生に戻ったような明るさで肩を組んだりして駅まで歩き、電車に乗り、一番最初に降りる俺に二人は大きく手を降った。久しぶりに気持ちの良い楽しい夜だ。 電車から降りたら風がすごく冷たく、酔った身体が冷やされてくる。 改札を出て立ち止まり時計はみる。まだ11時、このまま家に帰ってもきっと悶々と考えてしまうかもしれない。 今なら、気持ちよく酔っている今なら行けるかもしれない。 いや、酒の勢いがなければきっともう一生Bar moonlightには行けないだろう。 よし行くぞ!タバコも吸いたい! 吉岡の陽気さが感染ったのか、行進するように店に向かって歩き出した。 ツッタカターツッタカター 無意識に早歩きになっていたので、あっという間にBar moonlightに到着した。 着いて、店の扉に手をかけた瞬間、俺の身体が石像のように固まった。 さーっと酔いが冷めていくのがわかる。 動かない身体に困惑した。 このまま帰ろうかな、と手を離した瞬間扉が開いたので、おおっと声をあげてしまった。 「いらっしゃいませ、どうぞ中へ」 知らない店員さんがそこにいた。 その人は俺より小柄で蒼井よりも線が細く、金髪に近い茶色の髪にアイドルのようにはっきりと整った顔立ちの男の人だった。 動揺を隠せない俺をみて、くすっと笑いながら案内してくれた。 蒼井は何事もなかったようにいらっしゃいませ、と挨拶し他の客と話していた。 今日は昨日とは違い、店内はとても混んでいた。 カウンターは満席で、3席あるテーブル席も一つしか空いてなかった。 「ここでもいいですか?」と、聞かれたので良いですと答え上着を脱いた。 カウンターに座るより蒼井との距離が離れているのでむしろこちらのほうが都合が良かった。 「ごめんなさい、注文の前に水を1杯いただけますか?」と席につく前に水をお願いしたので、メニューを見る前に水を飲むことが出来た。 外の寒さで酔いが醒めたとは言え、昨日のようにベロベロに酔うのは避けたい。 メニューを見ながら、もうジャックダニエルじゃない違うものにしようと思ったが、Barは酒の種類が多くて悩んでしまう。 隣の隣のテーブル席に座っているカップルの彼氏の方が「モスコミュール下さい」と頼んたので、便乗しようとカクテルのメニューをみる。 注文しようと蒼井の方を見たら、テキパキとドリンクを作りながらカウンターに座っている常連であろう人と話していた。 横顔しか見えないが、50代くらいのメガネを掛けた渋い客だった。 「そういや、マスターは昨日休み?」 「いやいや!やってたんですけどね、あまりに暇だったんで珍しく早めに閉めちゃいました。」 「やっぱりね、昨日帰りに寄ろうと思ったら電気消えてたから」 あーそうだったんですか、と申し訳なさそうな声をあげた。 「辛抱して開けておけばよかったな。」 「そうだよ、俺の楽しみを奪わないでくれ」 メガネの客は冗談をいうように笑っていった。お酒の飲み方がわかっている紳士だとすぐにわかる気持ちの良い雰囲気の方だ。その人はの両隣も雰囲気が良かった。 同じように自分のペースでのみ、空気を壊さないような話し方、年代は全く違うのにこれが類は友を呼ぶってやつか。 二人の会話が終わったところで声をかけようと待っていたら横の彼氏のほうがすいません、と店員を呼んだ。 はーいとすぐにやってきて注文を受ける準備をした。 「チーズの盛り合わせと、この本日のワイン下さい」 「ワインは赤ですか、白ですか?」 「白で」 かしこまりました、と店員が戻ろうとした時「すいません」と声をかけた。 「少々お待ち下さい」と蒼井に注文の紙を渡してすぐに戻ってきた。 「はい、注文ですか?」 「えっと、モヒートと生ハム、それにミックスナッツ下さい」 かしこまりました、と注文を書き込み戻っていった。 彼の声は少し高くよく通るいい声だが、蒼井の静かで低い声の方が好きだ。 今日は人が多くて蒼井と話せず、顔をちゃんと見ることもできなかった。 ほっとしたような、残念なような説明し難い感情を隠すようにタバコに火をつけゆっくりと吸い込んで煙を吐いた。 ああ、ここでタバコを吸うと一段と美味しく感じるな。 少しすると注文したものがテーブルに並び、俺はゆっくりモヒートを飲みながら蒼井と店内を眺めた。 雨は夜更け過ぎに、雪へと変わるだろう、サイレントナイト、ホーリーナイト 今度は吉岡のふざけた詩じゃなくて、本人の歌声が頭に流れた。 どこか切なくなっているのは、この歌のせいだろう。

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