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第12話 衝撃
ぼうっと店内を眺めながら酒を飲んでいると、急にスマホが震えだした。
誰だ?と画面を見るとテツからの着信だった。
「テツどうした?」
「砂ちゃーん、さっきはありがとう!てかさ、実は話があったのに言うの忘れちゃったよ!吉岡のせいだ!!」
小さい声で電話にでたのにテツの声がでかくて驚いた。
きっと周りに聞こえただろう、視線を感じた。
すいません、と周りに頭を下げ通話の音量を下げた。
「おい、テツ声でかいよ。」
「ごめーん、だってそれを話したくて飲みに誘ったのに今思い出したんだよ!そりゃあ声もでかくなるでしょ」
くっっそーーと大げさに悔しがっていて、つい笑ってしまう。
「月曜にでも吉岡のこと殴っとくよ、で、話ってなんだよ」
「いやさ、顔見て話したいから今から砂ちゃん家いく」
は!?と今度は俺が大声を張り上げてしまい、ああすいませんとまた頭を下げた。
「今家じゃないから無理だよ。一人で飲んでるの」
「マジ!ちょうどいいじゃん、そこ行くから!なんて店?」
「Bar moonlight 」
「オッケー!俺が行くまで待っててね。」
ブチッと音が聞こえるような激しい切り方。
電話を切った後、俺の身体が小刻みに震えた。
今からここにテツが来るのか、さっきは平気だったけど吉岡がいない二人きりは凄く不安だ。
話ってなんだ、家に来るよりも人がたくさんいるここのほうが安心だが、ひどく困惑して、グラスを持ったまま動けずにいた。
どれくらい固まっていたのか、ふいにドアが開きテツが手をキョロキョロと周りを見渡し俺を見つけて手を降った。本当に来てしまった。
テツは蒼井に、あの人の連れです、とにっこり笑って俺の前に座った。
「ごめんね、一人で楽しんでたのに急に来ちゃって」
「いいけど、早かったな。道に迷わなかったか?」
「大丈夫、検索のテツと呼ばれた男だよ。任せろ!」
まだ酔っているのか、吉岡の陽気さがまだ抜けないのか、イヒヒ!と笑って楽しそうだ。
二人きりになって苦しくなるかと思いきや、ふざけているテツを見てふっと笑えて、先程のように自然にいられたので、本当に俺の中でテツへの恋は過去にできたんだなと感心した。
「で、話ってなんだよ。すげー怖いんだけど。」
俺の質問に、少し言いにくそうにもじもじしながら、実は、と話し出す。
「実は、俺結婚することになりました。」
恥ずかしそうに、でも幸せそうな笑顔だ。
ガツンと頭を石で殴られたような鈍い痛みが走る、結婚、、、
付き合っている人がいるのは知っていた、そのうち結婚するんだろう、とわかっていたが。
やはり衝撃は大きい。
すぐに声が出せず、目を見開いたままでいるとさっと人の気配がして声がした。
「いらっしゃいませ、ドリンクいかがなさいますか?」
心地よい声がした、ふと声の方に視線を送ると蒼井がニッコリと立っていた。
「あ、そうですよね。すいません。すぐ決めるので、ちょっと考えてもいいですか?」
「もちろんです、ドリンクのメニューはこちらです。ごゆっくり。」
蒼井が戻ろうとした時、テツがすぐに引き止めてジャックダニエルの水割りを頼んだ。
「ここジャックダニエルあるじゃん!砂ちゃん良いお店見つけたね」とはしゃいでいるがまだ困惑していたので上手く返せずにいた。
「砂川さんはドリンクどうしますか?」
蒼井が俺をじっと見ている。
はっ!として俺も蒼井の顔をみた。そしてゆっくりと息を吐いた。深く深く吐いた息のおかげて、深く息を吸うことが出来る。
そうだ、呼吸ってこういう風にするんだ。
蒼井のおかげで思考が戻って、落ち着いた。
「蒼井さん、おまかせでなにか作ってもらえます?」
「いいですよ、どんなのがいいですか?」
「そうだな、爽やかなの」
「かしこまりました」
蒼井はにこっとわらって戻って行った。
「あのね、砂ちゃん。それで砂ちゃんには友達代表スピーチをしてもらいたくてお願いに来ました。」
テツが俺に向き合って真剣に話を続けてた。
先程の鈍い痛みが嘘のように消え、素直にお祝いしたい気持ちになっている。
「うん、わかった。いいよ!」
やったーありがとう!テツは大げさに喜び、興奮しながら話している。
彼女との事やら、俺への感謝やら、話の内容は正直頭に入っていない、どうでもいい。
幸せそうなテツがとても嬉しかった、良かったな、と素直に思える。
「テツ、結婚おめでとう。幸せになれよ」
と心をこめて祝福した。
テツは俺の言葉に心底感動したようで、嬉しそうに割りながらお礼を言っている。
「俺、砂ちゃんがいなければここまで来れなかった。」
「大げさだな」
「大げさじゃなくて本当にそうだよ。砂ちゃんはいつも俺を助けてくれた。マジな話、俺にとって一番大切な友達なんだ。祝福してくれてありがとう。」
テツの言葉がすーっと心に入り込んでズキンと痛み、その後にじわじわと温かい気持ちになった。自分の子供が嫁いていくような感覚か。
まだ、心が痛む時があるけれど素直に祝福できて俺自身も嬉しかった。
テツはジャックダニエルをいっぱい飲んですぐに帰った。
「一人のみを邪魔して悪かったな、また連絡するからちゃんと俺の電話に出てくれよ」
そう言ってすぐに帰っていった。
お金払うと言ったが、結婚祝いだからきにするな!と追い返した。
一人になって、タバコに火をつけゆっくり吸いながら周りを眺めた。
気がついたら人が少なくなって、俺の他に数人いる程度だった。
満席だったカウンターも2人しかいない。
一息ついていると、店員がカウンターに移りますか?と聞いた。
このままでも良いと思ったが、蒼井と目があって、ビリっと身体が痺れ思わず移ります、と答えてしまった。
カウンターに移る前に、トイレに行こう。
違うぞ、断じて違う!尿意を感じただけだ、頭のなかで言い訳している自分に呆れ、鼻で軽く笑いトイレに向かった。
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