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第13話 二度目のキス

気がつけばラストオーダーの時間になっていた。 「そろそろラストオーダーですけど、どうします?」 アイドルみたいな店員は佐藤レオ(さとうれお)という名前で名前もアイドルみたいだ。 一人残っていた客はお会計で、と支払いをして帰っていった。 テツが帰った後もペースを崩さず、むしろハイペースで飲み続け、とても酔っていた。 身体がふわふわとして止まっていても自然に身体が揺れる。 これはまずい、そう思ったがまだ帰りたくない。 何も考えなくていいくらい、もっと酔ってからそのまま寝てしまいたい。 「すいません、ジャックダニエルの水割りで」 最後の最後に今日初めてのジャックダニエルを頼んだのは、最後に少しだけテツを思って終わりにしたいと思ったから、ただ感傷的になっただけ。 レオくんに注文したのに横にいた蒼井が、かしこまりましたと言った。 ジャックダニエルの水割りは、いつもより美味しく、そして少し苦しく感じた。 どこかうしろ髪ひかれてしまう。 3口目を飲んだ時、ぽろりと涙がこぼれてしまった。 悲しいんじゃない、おめでたい、素直に嬉しいし、痛みより、感情が溢れた涙だ。 声を出さずに涙だけを流し、顔が見えないように寝たふりをした。 「レオ、今日はもうあがっていいよ。」 「え、でもまだお客さんいるし、酔いつぶれてますけど、大丈夫ですか?」 「大丈夫、実は知り合いなんだ、だからこのまま俺が送っていくよ。」 「なーんだ、だから今日このお客さんのことチラチラ見てたんですね。」 「うるせー早く帰れ」 はーい、といたずらっ子のように大げさに笑いながら、じゃあおつかれさまでーすと、すぐに帰る準備をして店を出ていった。 レオくんが店を出てすぐに玄関と看板の電気をしまい、店をしめている。 寝たふりをしながら、このまま寝たらどうなるのかと想像していた。 きっと呆れたように声をかけて、タクシーを拾ってくれるんだろう。 「砂川さん、大丈夫?」 隣に座った蒼井は俺の頭を優しく撫でている。 「もう、来てくれないかと思ったから来てくれて嬉しいけど、2日連続飲み過ぎだよね」 ま、しょうがないか。そう言いながらも俺を撫でる手は動いたままだ。 「結婚するって聞いてショックだった?ん?」 優しい声に俺は耐えられなくなって、寝たふりのまま答える。 「ショックだった。」 「悲しい?」 「いや、悲しくはない」 「ムカついた?」 「・・・素直にめでたいと思った」 頭を撫でていた手が止まる。 「本当に?」 「うん、めでたいけど最愛の娘を嫁に出す気分でとてもショックだ。」 そう言うと、蒼井が俺の顔を強引に引き上げ、涙でぐちゃぐちゃの顔が現れる。 「砂川さんってバカだけど、優しいね。」 そう言って涙を手のひらで優しく拭いている。優しいけどおばかさん、とくすくす笑って 。 「で、なんでここに来たの?」 「確かめたかった」 「何を?」 「わからない」 「わからないのにきたの?」 「行かないと後悔すると思った」 「砂川さんは、まっすぐだね。まっすぐ気持ちを揺さぶってくる人だ」 蒼井は俺を引き寄せ抱きしめた。 そしてまたゆっくりキスをした。 今日は最初からとても激しく、深いキス。 昨日のは強引にきつく唇を吸って、舌もとても強い力でねじ込まれたが。 今日のキスは柔らかいのに、息をするのも忘れるような深いキス。 その一回で鳥肌が立つような感覚。 一度顔を離し、俺の顔を見ている。恥ずかしくて目を伏せたままでいると、蒼井はまた深いキスを重ねてきた。とろけるような感覚が襲ってくる。 そうだ、俺はこの人に会いたかった。 もう一度キスをして確かめたかった、こんなにも求めてしまう心と体を。 蒼井のキス一つで興奮し体のすべてが自分のものじゃないようだ。 まだ、蒼井のことを何も知らないのにお互いを求めているのがわかる。 出会ってしまった。 「砂川さん、お家どこ?送っていい?」

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