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第19話 発熱した帰り道

帰宅ラッシュに抵抗出来ず、満員電車のなかで身を任せていた。 身体が怠い、熱があるのか背筋がぞくぞくする。 結局竹山はあれから俺に話しかけず定時で帰った。 よく、あのまま帰れたもんだ。 電車から解放されると、ベンチに座る。 スマホを触りLINEの画面を開いた。 【お疲れ様です、砂川です。週末はお世話になりました。】 PM9時、今日は体調が悪く仕事が捗らなくて残業してしまった。 この時間だと忙しくて携帯をみられないだろうが、まぁいいだろうとメッセージを送った。 【ちなみに、土曜日俺、金払ってないよね?今度行った時払うのでお会計の料金教えて下さい。】続けて送った。 さて、帰るか!とのっそり立ち上がると、すぐにスマホが震えた。 【お疲れ様です、響一です。メッセージありがとう。体調はどうですか?】 返信がすぐ着たので驚いた。 【今、ちょうど客がいないから暇なんだ】 今日は暇なんだ、タイミングいいな。 ガランとした店内、暇そうにタバコを吸う蒼井を想像した。 【暇か、タイミング良かった。俺は今駅で帰るところ。土曜の会計でたら送ってくれ!仕事頑張ってな!】 重い体をゆっくり動かしトイレに寄ってから改札を出た。 最寄り駅について気が緩んだのか、身体がさらに重くなって困る。 「あれ、砂かなり顔色悪いぞ!家まで送ろうか?」残業していた俺をみて吉岡が心配してくれた。遠回りになるから断ったが、今心底後悔している。 歩くのも辛い、少しの距離だが今日はタクシーで帰ろう。 そう決心して駅から出ようとしたら肩を叩かれた。 振り向くと、そこには蒼井がいた。走ってきたのか息があがっている。 「はぁ、はぁ、よかった!タイミングバッチリだね。」 「おい、仕事は?」 「暇だって言ったろ?少しだけ玲央に任せて買い物ついでに出てきちゃった。」 笑いながら息を整えている蒼井をみて、俺の心臓がうるさく動く。 そうか!俺、蒼井に会えて喜んでるんだ。 「馬鹿だな。…でも会えて嬉しいよ」 「え!?聞こえなかった、もう1回」 子供みたいにはしゃいでふざける蒼井の頭を軽く叩き、いいから仕事がんばれよ!と笑った。 「あれ、かなちゃん顔色悪いけど具合悪い?」 心配そうに俺のおでこを触り、あっと声を上げた。 「あっ!熱い、これ熱あるね。やっぱり土曜無理させちゃったか、ごめんね。」 「ほんとにかなちゃんって呼ぶんだな、砂って呼べ。」 「かなちゃんって呼んでもいいって言ったろ!それより俺、送るよ!」 「まぁ、言ったか。大丈夫だ、送らなくて!一人で帰れるよ。」 大丈夫、近いからさ!っと俺の腕を首にかけ、土曜日の時のように俺を支えながら送ってくれた。 見た目よりもガッチリした身体に支えられているからか、シャツを脱いだ身体を思い出してしまい、更に身体が暑くなった。 「すまん、甘えさせてくれ」 「もちろん!あ、おんぶしてもいいけど」 「それは勘弁してくれ」 ハハハ、いずれはお姫様抱っこして運んであげるねっと冗談を言いながらも、重い俺をぐいっと支えて送ってくれた。 家に着くとベッドまで運んでくれ、心配そうに頭を撫でる。 あの日を思い出してしまう。 「…押し倒して襲いたいけど、やめておく」 「変態か」 「変態だよ、でもかなちゃんの身体の方が心配だからしない」 真剣な顔で、ちゅっと軽いキスをされ寝てください!と蒼井が言った。 「いや、仕事があるだろ!」 「そうだった!!」 まるで、前から知っていたように自然に軽口を叩きあい、ふざけ合って、幼なじみのような居心地の良さがあった。 ベッドに横たわると、疲れからかすぐに睡魔が襲ってくる。 「薬は?なにか食べないと」 遠くでうっすら聞こえたが、もう答えることが出来なかった。 俺の風邪が蒼井にうつらないといいな。 ふわふわ浮かんでいるような感覚からすぅと眠りに落ちた。

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