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第20話 発熱2
気がついたら、4時を過ぎていた。
昨日よりは身体は軽くなったが体調はまだ回復しておらず、仕事どうしようとため息がでる。
ふと、寝息が聞こえた。
なに?と寝息のする方をみると、蒼井がソファーで座りながら寝ている。
なんで、ここにいる?仕事は?帰らなかったのか?
混乱し、固まっていると、ん?と蒼井が目を覚ました。
「あ、起きた?」
そっと近づき俺のおでこに触れた蒼井は、まだ熱いな、と呟いた。
「いや、なんでここにいるんだ?は?昨日帰らなかったのか?」
ぼさっとした頭をぐしゃっと掻き、俺は蒼井を睨む。
心配してくれたことは嬉しいが、暇だったからとはいえレオくんに仕事を丸投げするなんて信じられない、怒りがこみ上げてくる。
「あの後すぐに帰ったよ。」
「じゃあなんでここにいる?」
「心配だったから、仕事終わってすぐに戻ってきた。かなちゃん寝ちゃったから確認取れなかったけどすぐに戻れるように鍵を借りていったんだ。勝手なことしてごめん」
蒼井はビニール袋からインスタントのおかゆやらゼリーやら冷えピタやら薬やらガサガサ取り出した。
「とりあえず、何か食べて薬飲んで。それからしっかり叱られるから。」
ね?そう言うとどっちがいい?とおかゆとゼリーを持ってきた?
「・・・ゼリー」
「オッケー!好きな味がわからないから3つ買ってきた。葡萄とイチゴとみかん、どれがいい?」
3つも買ってくるな、どれでもいいのに。ふっと力が抜けた。
懐にスリスリ入ってくる子犬のようで、たまらない。
「じゃあ、みかん」
はーい、とみかん味のゼリーの蓋を開けスプーンとともに持ってきた。
一口食べると、程よく冷たいゼリーがとても美味しい。
「それ食べたら薬飲んで、今日は仕事休んだほうが良いよ」
声がとても優しい、そっと俺の隣に寄り添って座る。
「うーん、今日は大事な会議があるから休めない。だいぶ回復したし、大丈夫だ。」
蒼井は頭を撫でながら、何かを言いたそうな目でこっちを見つめた。
言いたいことはわかる、でも難しい。
ゼリーを食べ終え、薬を飲んだ。
「いちを熱計って」
渡された体温計を脇に挟むと体温計が冷たくビクッとした。
そういえば、うちに体温計あったっけ。買ってきてくれたんだな。
すぐに音がなり見てみると38.8度だった。
おい、全く良くなってない!しかもこんなに熱が出るのは久しぶりで素直に驚いた。
無言で体温計を蒼井に渡したら、蒼井も無言で俺をみる。
見つめ合ってうなずき笑った。
「・・・休む。」
「そうして。」
熱が出てると知ったら、余計グラグラ頭が揺れた。
意識が遠くなる前に、俺は慌てて吉岡にLINEを入れる。
【吉岡、朝早くからすまない。高熱が出て今日会社に行けない。でも今日は会議だろ?流石に竹山に任せられないから、申し訳ないけど吉岡、会議のプレゼン任せてもいいか?迷惑をかけてしまってすまない。】
会社にも電話を入れないといけないので値落ちしても良いように7時半にアラームをセットする。
蒼井は俺のそばにきて、そっとおでこに冷却シートを貼って頭を撫でた。
「ありがとう、助かったよ。蒼井も疲れてるだろ、もう帰っていいぞ」
「響一だよ」
「そうだ、土曜の料金はいくらだった?
「響一だよ、きょ・う・い・ち」
俺の話に被せるように名前を連呼する。
「いや、蒼井でいいだろう。それに店の常連でさえ名前じゃなくてマスターと言っていたぞ。」
誰も名前で呼んでいなかったこと、実はずっと気になっていた。
「店長ではないだろ」
最初はクールでキレイで、少し大人な印象だったがもうすっかり可愛いヤツにしか見えない。
前の印象もかっこいいが、今の子供のような感じが俺の腕をぎゅっと掴んでいるようでたまらなかった。
何を話しかけても、きょういちだよ、きょ・う・い・ち!!
と頑なにいうので、俺は諦めた。
「ありがとう、響一。」
よろしい!と満足げな顔が可愛くて、押し倒してしまいたくなった。
俺、性欲まだあったんだな。今までどこに隠れてた。今までしないならしないで大丈夫だった淡白な自分どこいった。
早く帰れ!と口では言いながら、もう少しそばに居てくれたらな、と目をつぶる。
会社を休むなんて、母ちゃんが倒れた時以来だな。盲腸で倒れ入院中に「盲腸って痛いのね」と、真剣な顔で言った母ちゃん。
母ちゃん、弱っている時誰かがそばに居てくれるのって本当にありがたいんだな。
蒼井は眠りに落ちそうな俺を静かにじっと見つめていた。
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