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第21話 走れ!夜道を

【蒼井響一の場合】 携帯依存性かよ!というツッコミが聞こえてきそうなほど、家に帰ってから肌身離さず携帯を持ち、何度も何度もチラチラ確認した。 自分に呆れてしまうほど砂川からの連絡を待っていた。 仕事中も客から見えない死角の所に携帯を置き、ちらちら確認した。 いつもの営業スマイルも、上の空になりがちなので困る。 「マスター昨日あの後大丈夫でした?」 「うん、大丈夫。」 なら良かった、とレオは深く聞いてこなかったがどこかニヤニヤしていた。 砂川は服の上からも適度に鍛えているのがわかったが、抜いだら想像よりいい体だった。 腹筋はくっきり割れているのにくびれている。 恥ずかしいくせにもっとして欲しい、と俺を煽るとろけた目。あの目はずるい。 愛とか恋とかわからないけど、蒼井の事ばかり考えてしまう。 強制的に思考が砂川で奪われて行く。 結局日曜日は連絡は無かった。 うちに帰ってからも携帯を何度も見たが来て欲しい連絡はない。 「ほんとに、落ちたら自分では登れないな。」 一人で呟いて、ベッドに倒れ込む。 寝てるあいだに連絡くるかな、くればいいな。 顔の横に置いて、そっと目を閉じた。 「マスター今日は本当に寒いね、風邪ひいてる人多いからマスターも体調には気を付けるんだよ」 常連である丸井はどこか得意げに話している。 今日の客は丸井の他にカップルとたまに来てくれるサラリーマン。 「正直、俺はここ何年も風邪なんかひいてないよ」と丸井は続ける。 「風邪は厄介ですよね」 と適当に相づちを打ちながらも、携帯をチラチラみていた。 今日も連絡ないかな、と半ば諦めていたが携帯を見ながらの仕事に少しなれつつある。 レオにはバレバレだった。 「今日も携帯みてますね、誰からの連絡を待っているんですか?」 注文の紙を渡した時耳元でぼそっと言った。 「うるせー。」 レオは怖い怖い、と笑いがら皿を洗いに流し場に向かった。 注文の料理を全て作り終え、玲央に渡し一息をつく。携帯に視線を落とすとLINEの着信がきていた。 【お疲れ様です、砂川です。週末はお世話になりました。】 硬い文章なのに、胸が弾む。 連絡がきた!あっちからきた。自分からするの我慢してよかった。 【ちなみに、土曜日俺、金払ってないよね?今度行った時払うのでお会計の料金教えて下さい。】 と続いて届く。 金曜日に置いてった1万円でほぼ足りたから気にも止めてなかったけど、気にしてたんだな。 やはり真面目な人だ。 すぐに返事を返し暇だと、軽い嘘をついた。 忙しい、なんて言ったらもう返事をくれないだろう。根っから曲がったことが嫌いなタイプ。 【暇か、タイミング良かった。俺は今駅で帰るところ。土曜の会計でたら送ってくれ!仕事頑張ってな!】 会いたい、今行けば会えるかもしれない。 行け!思いのまま走れ!俺の中で声がした。 「レオごめん、ちょっとだけ出てもいいか?」 丸井と話していたレオが俺の様子をみて、いっすよー!と笑った。 「あ!レモン買ってきてください」 「はいよー」 上着と財布を握りしめて勢いよく、飛び出した。 駅まで走って3分、いや、2分でいける! 上着を持ってきたが抱き抱えて走ったので体中が冷たい夜風に包まれてるもうすでに冷えきっている。 それでも心は弾んでいた、会いたい。 きっと、砂川は憮然とした顔をして、おい仕事は?なんて言うかもしれない。 衝動的に走り出すなんて、ドラマ以外に本当にあるんだな。 運動不足の身体に鞭打って、人並みをかき分けひたすら走った。

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