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第22話 過去の事

【蒼井響一の場合】 俺は動揺した。 砂川に会えて子供みたいに喜んで、あわよくばデパートまで一緒に行こうかと思っていたが。すぐに体調が悪いことに気づく。 あれ、熱があるな!とそっとおでこに触れるとこの寒さの中ではおかしな熱を放っていた。 俺が抱いてしまったからか?ざわざわと心の奥が騒がしい。 深刻にならないように努めて冗談交じりに話しながらも砂川の身体をぐいっと寄りかからせて家まで送る。 じんわりと伝わる砂川の熱に、俺の心は動揺したまま。 「おんぶしてもいいけど」と半ば本気で言ったが、 「それは勘弁してくれ」と笑って流された。 砂川の家に着いたら、安心したのか砂川の身体が重くなった。 這うように自分のベッドに向かっていたので支えながらゆっくりベッドに横たわらせる。 ジャケットを気だるそうに脱いで、毛布の中に潜り込んだ 「風邪うつるなよ、仕事頑張れ」と小さく呟き砂川はすぐに眠りに落ちた。 顔色が悪く、熱のせいか脂汗が出ている寝顔を静かに眺めた。 俺の心配なんかしなくていいのに、砂川の風邪を全て吸い取ってしまいたい気持ちだった。 看病なんてしたこともないし、されたこともない。 風邪を引いて高熱が出たときも、俺はいつも一人でひたすら寝て治るのをまった。 思い出したくないのか、小さい頃の記憶は本当にぼんやりで今となってはほとんど思い出せない。 俺の母親はとても幼稚で自分勝手な人だった。 自分のことしか考えていないので、子供である俺よりもすべての優先事項が自分とその時の彼氏だった。 あいつは俺を17歳の時産んだらしい。 俺が保育園に通っていたときからお酒を飲むと呪文のように何度も話して聞かせた。 「きょうちゃんのお父さんはね、とってもかっこよくてママにべた惚れだったんだけど、きょうちゃんが出来て怖くなって逃げたんだよ。酷いよね。」 芸能人のようにキレイで整った顔、色気のある雰囲気。あいつは何歳になっても男が途絶えたことはなかった。 毎晩のようにお酒を飲み、まぁ~きょうちゃんがいなかったら今でもラブラブかもしれないけどさ、なんて笑いながら。 今思うと俺のことが邪魔だったんだろう。 夜の仕事もしていたあいつはいつも夜出かけていたので必然的に一人での留守番が多くなった。 ご飯はいつも賞味期限が切れたお弁当かパンだった。 何度もお腹を壊したが、そのうち何を食べても大丈夫な体になった。 あいつは男を連れ込んでは俺を押入れに入らせ、セックスしていた。 「あぁぁぁ~ん、気持ちいい、もっと、もっと、、」 最初はなんのことかわからなくても、流石に小学校を過ぎればわかる。 気づいても、子供にはどうすることも出来ないのでひたすら耳を抑えたり外で待っていたりした。 あーこれはニュースでやってるひどい親と何一つ変わらないな。 中学に入ると、俺の身長はみるみる伸び、母譲りの美形と色気で男にも女にも持てるようになった。 それくらいから、あいつは部屋に連れ込まなくなった。 きっと、俺のほうがいいとか言われたんだろう。 そうして、高校に入学した時あっという間に金持ちと結婚した。 あいつの良いところは俺に対して金を惜しまないことだ。 俺は高校にも大学にも行けたし、一人暮らしにも金に困らず生活できた。 もう何年もあっていないが、今でも金を送ってくるのでそれだけはありがたくもらっている。 それだけの人だ。 虐待されたわけでもないが、男がいないときは俺に執着していたので、それだけは今でもうなされるほど気持ちが悪かった。 あの声がどうしても気持ち悪く、俺は男としかセックスできなくなった。 そしていつしか男のほうがよくなりました、ちゃんちゃん。 砂川の寝顔を見ながら、昔のことを思い出すなんて。 そっと、頭を撫でておでこにキスをする。 早く良くなって、お願いだから良くなって。 出来ることならいつまでもここに居たいが、砂川の家の鍵をそっとポケットに仕舞いデパートへ走った。 レオごめんな、思ったより遅くなった。 レモンの他に、レオの好きなチョコ買っていくから許してくれ。

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