24 / 34

第24話 恋する乙女の素質

【蒼井響一の場合】 ハッと目を開けると、目の前に砂川の顔があった。 俺はいつの間にか寝てしまっていた。 深い眠りだ。目を開けたはいいが脳と身体が動かず、ここはどこだ?と理解するまで時間がかかった。 「大丈夫か?」 放心状態の俺を心配そうにみている。 俺に寄り添って頭を撫でている、突然起きた俺に反応できず手をどけることが出来なかったらしい。 そうだ、砂川の家だ。 真横にある砂川の無防備な顔、短く整えてあるあご髭が気持ちよさそうだった。 「体調はどう?少しは良くなった?」 「うん、だいぶ楽になった。薬が効いたのか熱も少し下がったよ。」 そう言って、ベッドの端によって座る。 「響一は時間大丈夫なのか?」 ちらっと時計を見たらAM8時15分。驚いた、結構寝たんだな。 「大丈夫、まだまだ余裕だよ。少し良くなったならお粥食べる?作るよ、と言ってもインスタントだけどね」 端へ寄った砂川にずいずいと詰め寄りギュッと抱きついた。 「うーん、まだお腹すいてないからいいや。お前こそ何か食べたら?」 お腹のあたりにある俺の頭を撫でながら、砂川の声は、とても優しくてなんともむず痒いが暖かい気持ちになった。 「俺もお腹すいてないから、もう少し寝たい。」 「帰らなくていいのか?」 「もう少しこのままでいたい」 ぽろっとこぼれた。 あ!しまった、本音がこぼれた。 「そうだな、俺もこうしていたい。」 大げさでもなんでもなく心臓を手で握られてるような感覚。ぎゅーっと締め付けられる。 顔が見られず、言葉も出せず、そのままくっついていた。 「出逢ってまだ間もないのに不思議だが、お前は特別だと言っている」 「…誰がいってるの?」 「俺の中の誰か」 ふふっと砂川が笑う。 「誰だよ」 と、俺も笑った。 「昨日、駅で会えて俺は嬉しかった。弱っていたから更にだな」 「弱みにつけ込めたんだ」 「成功だな、嬉しかった」 砂川の言葉はいちいち真っ直ぐだ。 甘い、とても甘い、目眩がしそう、甘く柔らかい空気にどうすればわからなくなる。 ここにいていいのか、と戸惑ってしまう。 嬉しいけど怖い、この甘さを知ってしまったらもう戻れない。 言葉が出ずに顔を伏せたままくっついていたら、着信音が部屋に響いた。 砂川はごめんな、と俺の頭を撫でするりと離れた。 「もしもし、吉岡?あ、送ったけどLINEの返事見てない!寝てた。すまんな、大事な会議の日に。」 気を許した相手なのか、軽く笑って話している。 「すまん、今度奢るから!パソコンに詳しい資料と攻略方を送っといた!竹山は当てにならないし、正直吉岡にしか頼めなかった。お前も忙しいのに悪いな。」 ―――いいってことよ!まぁ後で奢ってもらうけどな! 小さく聞こえる。 楽しそうに話しているその姿に、イライラしてムカムカする。 俺の知らない顔、いや知らない方が多いんだよ。 わかっているけどムカつく。 これは嫉妬か?恋する乙女だな、完全に。 また、ベッドの隅っこにより掛け布団を被ってきつく目を閉じる。 今まで馬鹿にしていた恋に溺れる人、俺はその素質があったみたいだ。 砂川は数分話したあと、じゃあ頼むな!と電話を切った。 少し気だるそうにベッドに戻ってきた砂川はくるまっている俺に寄り添うように横になった。 抱きしめることもなく横にくっついている。 「何時まで寝る?アラーム付けとくよ」 何も答えずにいると、寝たか?と布団越しに身体をぽんぽんと優しく叩く。 とりあえず1時間だな、そういうと砂川はおやすみ、といって毛布をかけた。

ともだちにシェアしよう!