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第27話 花金
竹山が俺の所にやってきた。
とても気まずそうに、申し訳なさそうに腰を曲げ小さくなっている。
「おはようございます。」
「うん、おはよう。昨日は急に休んですまなかった。」
いえ!と軽く顔を横に振り。
「俺、正直砂川先輩も休んでんじゃんって思ったんです。」
「うん」
「それで、吉岡先輩がさらっと会議を進めてくれて。すげーって」
良かった、吉岡は上手くやってくれたんだな。
「そしたら、吉岡先輩が見せてくれたんです。細かい資料に攻略法ってかかれた内容。でも吉岡先輩は会議の時何も教えてくれませんでした。
こうすればいい、とかいつも砂川先輩は教えてくれてたので当たり前に待っているだけで何もできなかったんです、」
竹山はピシッと背筋を伸ばして続ける。
「営業の基本的なことや、書類の作り方、仕事の取り組み方、振り返ればこんなダメな俺に細かく教えてくれたのは砂川先輩だけでした。」
緊張しているのか竹山の顔がドンドンひきつっていく。
「今後ともご指導、宜しくお願い致します。」
ビシっと音がするくらいのお辞儀をした後まっすぐこっちを見てきた。
「ご指導しなくても自分で考えて動けるようになれよ」
はい!色々すいません!と謝って去っていく。
昨日吉岡に何か言われたのかもしれない、あいつは本当に見えない所でさらっとやってくれる。
お礼を言いに行ったら、高い店で奢ってもらわなきゃ割に合わねーな!と笑い飛ばしてた。
これは水曜の話。
「よし、今日は花金だしとことん飲もうぜ」
「は?まだ昼だけど」
吉岡がお弁当を食べながら、いや夜だよ!と笑って肩を組む。
「いいよ。」
「決定!砂のお気に入りの店で砂のおっごりー」
勝手に決めてごきげんそうにイエイ!と軽く踊る吉岡を流しながら、お気に入りの店ね、とBar moonlightが浮かんだ。
あれから竹山は一生懸命学ぼうとしだしている。
やっとここからこいつは大きくなるだろう。
「どうする、竹山も誘うか?」
最後の卵焼きを食べて、吉岡がいう。
なんか見透かされてるみたいだな、と少し悔しくなったがそうだな、おう、と頷く。
「やっぱ砂は優しいよな、俺から声掛けとくよ!」
「頼んだ」
【今起きた。布団が気持ち良すぎてもう少し寝たいよー。ねえ、今日は寒い?】
携帯が震え視線を落とすと、蒼井からLINEが着ていた。軽く笑いながら返事を打ち込む。
【おはよう。寒いぞ、遅刻すんなよ。】
蒼井にLINEをいれ、コンビニで買ったおにぎりの残りを口に入れる。
最初は看病してくれたお礼をいれて終わるはずだったが、そこからちょいちょい他愛もない話をLINEで送り合うのがゆるく続いていた。
【そうだ、今日同僚達と店に行くかもしれない。じゃあ仕事に戻るな、響一も頑張れよ】
そう送り、俺たちは仕事に戻った。
「ここかー!砂のオススメの店ってのが!」
Bar moonlightがもう少しで到着するって所で吉岡が無駄にテンションをあげている。
竹山の仕事が遅れたので9時近くなってしまった。
すいません、と俺達の後ろで小さくなっている竹山に吉岡が辛気くせーなと毒づきながらも励ましていた。
「オススメって言っても最近知ったばっかりなんだけど、良い所だよ。」
「今日は酔いつぶれるまで飲んじゃうからな!」
竹山の首に腕をかけ、レッツゴーと小走りで店のドアまで行き店に入る。
俺も吉岡たちに続いて店に入る、蒼井はどんな顔をするだろうか。
少しドキドキしている。
蒼井に会いたくてこの店にしてしまったところがある、ほんの少し、本当に少しだけ。
自分に言い訳しながら店に入ると、想像と違う光景が目に入ってきた。
「え、アオ?マジか、ここアオの店か?」
「ヨシキ?うわ、久しぶりだな。スーツ着てる。」
「いや、社会人だしな。アオもウエイターのような姿だし」
「マスターといえ」
二人は偶然の再会に戸惑いながらも喜んでいるように見える。
もわっと胸が気持ち悪くなる、知ってるぞ、この感情。
吉岡が一瞬俺に見せたことのない顔を見せている。
「あ、きたきた!こいつは仲のいい同期で砂川で、こっちは後輩の竹山。」
俺たちを紹介して、一番仲いいんだぜ!と俺の頭をぐしゃぐしゃにした。
おい、やめろ!と軽く抵抗するが蒼井の顔は見れない。
「先週来てくれましたよね。」
と、俺に向かって笑いかけた。その笑顔がとても他人行儀でまた胸がもやっとした。
苦笑いしか出来ない俺を見て、吉岡は人見知りが出たな、と背中をバンバン叩きどこに座ればいい?と蒼井に聞きテーブル席に座った。
竹山も軽く会釈をして続いたので、俺は最後に席につく。
店は程よく賑わっていた。
カウンターは半分埋まっていて、テーブル席も残り1席。
レオくんも忙しそうにパキパキ動いている。
「よーし!俺腹減ってるから取り敢えず、ビールに唐揚げな!竹山はどうする?」
「俺はカシスウーロンでお願いします。」
「おーし!カシウーロンね」
「いやいや、無理やり略すな」
吉岡の肩を軽く叩いた。
「砂のツッコミ待ちだったんだよ!てか、砂はどうする?」
「うーん、俺もビールとあと、海老のフリットで」
吉岡は流れるようにメニューを決め、レオくんに注文した。
お兄さんお願いね、と手をふっていた。
さっきの見たことない表情が嘘のようにいつもの陽気さで竹山の罪悪感と緊張を解していく。
俺には出来ないテクニックだ、やっぱりホストになればいいのに。
「注文したし、ちょっと話してきていい?」
吉岡はそう言うと人がいないカウンターの方に行き蒼井と話していた。
こそこそと。
蒼井の笑顔が見えた。
なんだよ、こんなことなら紹介しなければよかった。
これから一人でここに来るかもしれない、吉岡め!
てっぺんからハゲてしまえ。
理不尽にハゲの呪いをかけた時、ビールとカスルウーロンが届いた。
ドリンクが届いても吉岡は話を止めなかった。
なんだよ、戻ってこいよ。ハゲのビールを全部飲んでやる!
イライラしたので吉岡を待たず、竹山と乾杯した。
「砂川先輩って結構わかりやすいんですね。可愛い」
と竹山が笑ったので。
「おい、可愛いとか言ってんじゃねー!髪の毛むしるぞ」
と理不尽な怒りを竹山にもぶつける。
「絶対ダメですよ」
竹山は笑ってゆっくりカシスウーロンを飲んだ。
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