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第31話 熱に侵された
熱に侵された。
今の状況を一言で説明しろと言われたら、俺はそういうだろう。
自分の意志で蒼井を求めている。
蒼井のキスは、わずかに残っていた理性を容赦なく粉々に粉砕し、俺を奪っていく。
もっと、もっとだ、蒼井が欲しい。
腹の下の方がわかりやすく熱くなり、ビリっと痺れ頬が熱くあの夜の感覚がよぎる。
俺の興奮とは裏腹に蒼井はそれ以上はしてこず、唇を離し多と思うと笑って頭を撫でては飲みかけのビールに手を伸ばした。
出会って数週間だが蒼井の存在は俺の中で膨れ上がり、どうしようもなく求めている。
求めていたからこそ、唇が離れ求められなかったことがとても悲しくて胸が痛んだ。
こんなことが何度も続いたら俺の心はぱきっと割れて崩れ落ちるだろう。
無理やり襲ったり、テツの時のように何もせず見ないふりでいることはしない。
「響一。」
俺は意を決して正座をして姿勢を正し蒼井の顔をじっと見つめた。
「ん?なに?」
ちょっと笑いながら、不思議そうにしていたが真剣な眼差しで見つめたら、蒼井も姿勢を正し俺に向き合った。
「どうかしましたか?」
声はとても優しい。
ふぅ、と軽く息を吐いて言葉を発した。
「俺は響一が好きだ。」
まっすぐ目を見て言った。
言葉にしたら、ますます恋しいという感情が溢れ、この告白でもう蒼井と会えないかもしれないと、不安で目頭が熱くなった。
驚いたのか、蒼井の目がかっと大きく見開き先ほどよりも険しい顔をして俺の目を見つめ返している。
突然の告白だ、そりゃ驚くだろうよ。ふざけてんのか、と思われても文句は言えない。
それでも今言わないといけないと思った。
「さっき、猛烈にお前が欲しくて、キスをしたとき痺れるほど気持ちよかった。抱かれたいと思った。」
蒼井は黙ったまま動かない。
「出会ってすぐで、好きとか重いのもわかる。でも、気持ちがないのにこうやって会うのは無理だという事がたった今わかった。」
目頭だけでなく、喉のほうまで熱さが襲ってきて言葉を発するのが難しくなる。
「俺は駆け引き出来ない、考えてくれ。」
そう言って、タバコを持ち火をつけようとするが手が震えてうまくいかない。
「・・・かなちゃん、俺・・・」
言葉に詰まっている蒼井を見て強烈に告白を後悔した。
早いほうが傷も浅くて済む。
早く分かったほうがいいんだ、俺はもう若くない。
「困らせて悪かった、帰っていいぞ。俺は風呂に入ってから寝るから」
困っている蒼井を見ていられず、逃げるように風呂場に向かう。
後ろのほうで、蒼井が俺を読んでいるが聞こえないふりをした。
恥ずかしいことに言い逃げをした。断られるのが怖かった。
流れるように服を脱ぎ、シャワーを頭からかぶって浴槽に座り込んだ。
初めての告白。
今までの彼女も全部あっちから言ってきたので、こんなにも心が痛み大変な事だったなんて知らなかった。
ここに誓う、これからは丁寧に対応しよう。
数分座り込んだ後、ゆっくり立ち上がると、シャワーか涙かわからないまま恋に敗れた男の歌を口ずさみながら体を洗う。
やけに月がきれいだ、俺の胸は痛むのに
やけに風が気持ちいい、俺の胸は痛むのに
30分くらい入っていた。服を着てドアの前で止まる。
もう、帰ったかな。
悪いことをした、と反省をしながら部屋戻ると蒼井はいなかった。
わかっていたが、やはり痛い。
矢が胸に刺さったようだ、呼吸もできない。
その場にへたり込み、ふぅふぅと苦しく息を吐いた。
誰だ、早いほうが傷は浅くて済むって言ったやつは。
早くても傷は深いじゃねーか。
うずくまっていたら、ガチャっと扉が開き蒼井がそこにいた。
「どうしたの?」
蒼井は勢いよく俺に駆け寄って心配そうに除いている。
どうしたの?はこっちのセリフだ。
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