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第32話 感情の結末

しばらく蒼井の胸に顔を押し付けていた。 じんわり蒼井の服を濡らしてしまっていたが、子供をなだめるような手が俺の心を落ち着かせていく。 どれくらいそうしていたのか、ゆっくり息を吐いてやっと俺は言葉を発せるようになった。 「なんで帰らなかった?」 「なんで?って言われてもね」 「わるい。わかっていても断られる言葉を聞きたくなかった。」 顔を押し付けたまま、顔は見れない。 「断る前提かよ、決めつけないでほしいもんだ」 冗談をいうような軽い言い方でふふっと笑っている。 「やっぱり、かなちゃんはまっすぐ心を揺さぶる人だよね。」 俺から身体を離し顔を覗き込みながら蒼井は続ける。 「違うんだよ、俺きれいな恋とは無縁だったから。初めてすぎて戸惑ってたの。」 「恋に、キレイも汚いもあるのか?」 「あるんだよ、ていうかそもそも恋自体したことがなくて。愛も恋も信じてない。」 明るい口調だが、蒼井の深い場所に傷があるんじゃないかと心配になり、顔を上げ蒼井を見た。 どこか儚くて消えてしまいそうだ。 「わからないんだ。愛するとか、よくわからない。」 蒼井は遠くを見て、笑っている。 きっと蒼井の素直な気持ちだろう。 嘘をつかずに言ってくれている、のはわかるけど。 グレーの状態がつらくて告白したのに、黒白はっきりしないのは、、、 「押し付けてすまなかった。」 ぐっと身体を引き離し、出来るだけ落ち着いた声色で話をつづけた。 「これからも店には行くけど、二人では合わないから」 ぐっと蒼井を押して、身体を離し出来るだけ落ち着かせ笑て見せる。 小さく息を吸って、飲みかけの酒を取りにテーブルまで取りに行った。 部屋の空気がとても湿っぽいのは俺の気持ちも湿っぽいから。 あふれ出た感情を抑えきれなくて、蒼井のことも考えずにぶつけてしまった。 悪いことをした、あんなに困惑させて、いやな過去とか思い出させてしまったかもしれない。 ゆっくり酒を口に含み、悪かったな。ともう一度誤り帰っていいぞ、と蒼井の上着を持って行く。 「だからなんで勝手に決めるんだよ。」 聞いたことない荒々しい声だ。 「確かに驚いたしわからない。でもそれで終わりに出来ないから戸惑ってたんだろ」 俺の手をぐいっと引っ張り強引に抱き寄せた。 「好きだってまだかなちゃんに言えない、まだ自分ではっきりわかってないから」 耳元の声がどんどん頭の中にすいこまれていく。 「でも、俺はこうして会いたいし先があるなら進みたい。これっきりは嫌だ。こんなに強く思った人は初めてなんだ。愛とか恋とかわからないけど、俺はかなちゃんと会えないのは嫌だ」 それ、俺のこと好きって言ってるのと変わらないと思うが。 ふぅーっと体中の力が抜けてしまい、情けない顔で笑うしかなかった。 「いや、俺真剣に話してるんだけど」 「うん、真剣に聞いた。」 「ならいいけどさ」 蒼井の顔をちらっと見ながらまた情けない顔で微笑んだ。 「今はその言葉だけで十分だ。ありがとう、セックスするしないは置いといて!こうやって二人で会う時間作ってもいいか?」 蒼井は嬉しそうに笑ってオッケーだよ!とまた抱きしめる。 「できればセックスはありの方向で」 「いや、だからそこは冗談で言ったんだけど」 「アリの方向で」 いい笑顔だ、悔しいほどかっこいい。 「要相談だな、とりあえずまずはない方向で、もっと二人の時間が欲しいだけだ」 俺は笑いながらトイレに向かった。 「そんなにまっすぐ言葉にされると、嘘もごまかしも出来なくなるから本当に困るよ。本当の俺はきれいじゃないから、怖い」 小さく、消え入りそうな声が聞こえた。あいつは知らない、俺の耳が恐ろしくいいことに

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