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第33話 再会
【蒼井響一の場合】
起きてすぐにラインを送る事がここ数日の日課になっている。
初めて砂川から送られてきたラインは本当にそっけない文章だった。根が真面目な砂川は送られてきた内容にはきちんと返事をしてくれるので、俺は他愛もないことでも、短文でも、考えては送信していた。
俺は出来るだけラフなラインをちょこちょこ送り友達のような、恋人のような軽いラインを心待ちにするようになっていた。
【おはよう。寒いぞ、遅刻すんなよ。】
起きたくないって送ったら、遅刻すんなだってー。可愛いな。
ベッドの中でまどろみながら、携帯をみつめ一人にやにやと顔が緩んでしまう。
なんて返信しようかと、眠く動かない頭に鞭を打っていると、ぶるっと携帯が震えた。
【そうだ、今日同僚達と店に行くかもしれない。じゃあ仕事に戻るな、響一も頑張れよ】
緩んだ顔が更ににたーっと緩み、タバコを吸うスーツ姿の砂川が過って心がうるさい。
会いたいな。煙草を吸っている姿みたい。
なんであんなにセクシーに煙草が吸えるんだろう。そう思いながら煙草に手を伸ばして口に咥え火をつけた。
同僚ってどんな奴かな。あ、休んだ時に頼った仲のいいやつか?
そうか、お礼に奢るんだ。そういえば今日は金曜日。
本当に律義な人だな。
携帯が静かになったので、小さく息を吐き重たい身体を動かしてシャワーを浴びに向かう。
楽しみが増えた。
金曜日は忙しい。
そうさ、花金だもんね。逆に忙しくないと困るんだけど。
砂川たちがやってくる時、満席だけは勘弁してくれ。
「ソーセージの盛り合わせと、ビール入りました」
「はい」
レオがパキパキと動き気持ちのいいペースで料理と酒の注文をさばいていると、がらんと扉が開いた。
「え、アオ?マジか、ここアオの店か?」
一瞬固まり、懐かしい顔に驚きついつい顔が緩んで大きな声が出てしまった。
「ヨシキ?うわ、久しぶりだな。スーツ着てる。」
「いや、社会人だしな。アオもウエイターのような姿だし」
「マスターといえ」
偶然の再会とはこのことだな。
ばたんと扉の閉まる音でそちらに目を向けると…驚いた表情の砂川が立っていた。
「あ、きたきた!こいつは仲のいい同期で砂川で、こっちは後輩の竹山。」
ヨシキが砂川を紹介して、仲良さそうに髪の毛をぐしゃぐしゃにする。
一番仲いいんだぜ!と無邪気に笑うヨシキに、黒い感情が溢れ向けられていく。
おい、やめろ!と抵抗しているが砂川は当たり前のようにヨシキの行動を受け止め流している。ムカつく、触るな、そいつは俺のだ
俺の?俺のなんだ…ん?これは独占欲?執着?嫉妬?
一番縁遠い感情のはず…これは…なんだろう。
「先週来てくれましたよね。」
どこか苛立ちながら砂川に話しかけると、なんでそんな他人行儀なんだ?と目が悲しそうに訴えている。
その顔に黒い感情がすーっと消えていき、ああもっと話したい、と思っているとヨシキが席を確認してするするとそちらへ行ってしまった。
これで満席。
ああ、本当によかった。テーブルがひとつあいていて。
同僚と後輩と一緒にいる砂川は知らない人みたいだった。
注文をさばきながらちらちらと視線を向ければ、ヨシキがその場をしきり砂川は安心した子供のように笑って受け止めている。
ヨシキがレオに注文したらこっちにやってきた。
「おいおい!偶然だな。元気か?」
「ああ。ヨシキは相変わらずだな」
「あ!砂と知り合いみたいだけど、俺がこっちだってことは内緒だから言わないでくれ」
「別にいいけど、あれ…ヨシキってそんなに頑なに隠してたっけ?」
ふっと口角を上げたヨシキは、会社では頑なだよ、と笑った。
そうだよな。
「あと、砂にもばれたくない。あいつとの関係を壊したくないし…きっとあいつなら受け止めてくれると思うけど…でもこのままがいいんだ。」
ふっと笑った笑顔がどこか寂し気で、胸が騒がしくなった。
二人で砂川の席に視線を送れば後輩との会話が小さく聞こる。
「砂川先輩って結構わかりやすいんですね。可愛い」
「おい、可愛いとか言ってんじゃねー!髪の毛むしるぞ」
「絶対ダメですよ」
竹山とやら、お前調子に乗ると俺が本気で髪の毛むしるからな。
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