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ケース4 19歳大学生(脅迫者と被害者)

「早く服を抜いで、股を開け」  胃がぎゅっと締め付けられる痛みに、カバンを握りしめる手に力がこもる。 「…先にシャワー浴びさせて。…今日は時間が無くて準備ができてない……」  男は、チッと腹立たしげに舌打ちをしてタバコを取り出すと、乱暴に灰皿を引き寄せた。 「ちゃんと、穴作って用意しとけって、いつも言ってるだろっ。時間がないし早くしてこいっ」  カバンを握りしめたままユニットバスに向かう。 「おい、待て。携帯は、ここに置いていけ」  抗議の眼差しにも動じず、男は涼しい顔で携帯を受け取り操作しはじめた。この1週間の通話履歴や、メールを確認しているのだろう。  ――クソがっ! 死ねっ!!  シャワーをひねり、カバンから潤滑剤を取り出すと、今から始まる屈辱の時間のための準備を始める。  男のセックスは、いつも長くてねちっこい。 「痛いっ! そ、そこっ…離してっ……」 「ほら、これ、いいだろっ! どうだ?」  根元を手で絞めつけられ射精できないペニスは、限界まで張りつめている。  手を離して欲しいという懇願は聞き入れられず、腰の律動がますます激しくなる。  粘膜いっぱいに満たされている男のものに追い立てられ、中に射精されると同時に、目の前が真っ白になり意識を手放した。 「ほら、起きろっ」  頬を叩かれて意識が戻った。シャワーを浴びるため、のろのろと体を起こす。 「とうとう、ドライでいったな。もう、立派なホモだよ、お前は。ノーマルぶって、女をつくろうなんて考えるなよ」  いつもに輪をかけてネチネチと執拗だった今日のセックスは、罰だったのだと納得する。  3日前、コンパで連絡先を交換した女の子と、メールのやりとりをした。  その痕跡は綺麗に消したつもりだったが、男にはわかってしまったのだろう。  そもそも恋人でもなんでもない、ただの脅迫者のこの男に義理立てする必要はない。  ずっと、この男にお金ではなく体を脅し取られている。 「……いつになったら、あの動画を消してくれるの? あんたの言う通りにしてるだろう? いい加減終わりにしてくれよ……」  悔しくて涙が止まらない。何百回目かになる後悔を繰り返す。  ――あの時、新歓コンパに行かなければ……、酔っ払わなければ……。  大学に入ってすぐの新歓コンパ。一人になった途端、急に酔いが回って意識が混濁した。  道に座り込んでいる所を、親切な通りすがりの人を装ったこの男に、ホテルに連れ込まれてレイプされた。  その時に撮影された動画をもとに脅迫され、今もなお、体の関係を強要され続けている。  男の名前も、住所も、職業も何もしらない。  学生証、免許証を確認されてしまったため、こちらの情報はすべて知られている。 「お前が従順ないい子だったら、いずれ解放してやるよ」  手を掴まれ、ベッドに引き戻される。  右足を肩に担がれ、散々弄ばれ赤く腫れている窄まりに、再び男のペニスが入ってくる。  ――時間がなかったんじゃないのかよっ。クソがっ!  男の与える快楽など感じたくはなかったが、目を閉じて、力を抜いた。      ◇  ◆  ◇  終わりの見えない男との関係に恐怖を感じていた。  いっそのこと、お金を請求されたら良かった。それならば、はっきりと、終わりが見える。  あと、何回セックスすれば解放されるのだろう。  耐え難いのは、男とのセックスによって自分の体が確実に変えられていることだった。  おぞましく、痛みと苦痛でしかなかった行為が、最近では、快楽を感じる瞬間がある。  自分が自分ではなくなる。それは、恐怖以外の何ものでもなかった。  ――死にたい。もし、死んだら、この男は別の誰かを脅迫してセックスするのだろうか?  死に場所を求めて、ふらふら彷徨っていると、可愛い顔の高校生の男の子と目が合った。  何か見たらいけないものを見てしまったかのたように、慌てて目を逸らされる。  また、視線を感じて振り返ると、慌てて目を逸らされた。 「何か用?」 「いえ……、何でもないです」  あの男とセックスするようになってから、見知らぬ男から誘われるようになった。  男に変えられてしまった体は隠しようがないのか、ある種の人間を惹きつけてしまう。  ひょっとして、この子もある種の人間なのかもしれない。  色白で、お人形のような顔に細い手足の中性的な体つき。  あの男以外の男とは、経験はないし、寝てみたいと思ったこともないが、この子となら寝てもいい。  困惑するその子の手をひいて歩き出す。  ホテルの前で、はじめて目的に気付いたのか、足を止めた。 「やめてください。帰ります」    手を振りほどこうともがく。 「ここまで来て、それはないだろう?」  どこかのスケベオヤジのようなセリフが口をついて出てくる。ホテルの前だし、我ながらテンプレート過ぎる。  握る手に力を込めて無理矢理中に引きずり込もうとした時、急に目の前が真っ暗になった。  どうやら、殴られてひっくり返ったようだ。  顔をあげると、眉間に皺を寄せてすごい形相でギリギリと睨んでいるヤツがいる。  きっと、こいつが殴ったのだろう。やけに背が高く、男の子と同じ制服を着ている。  口の中に、血の味がひろがる。 「何するんだよっ!」  手の甲で唇を拭いながら立ち上がり、反撃を繰り出すが、軽くよけられた。  こいつ、場馴れしている。明らかに、一枚上だ。  それでも、ひっこみがつかず、大声で叫びながら滅茶苦茶に手を振り回した。  そうこうしているうちに、通報されてしまったようで、お巡りさんがやってきた。 「レオ、走るぞっ!」  高校生の二人は、それを素早く認めるとあっという間に走り去った。  やはり、場馴れしている。  逃げ遅れた自分は、生まれて初めての職務質問。 「ケンカか? 君、ちょっと派出所まで来てくれる?」  聞き覚えのある声に訝しげに思い、その顔を覗き込む。  相手も何かを感じたのか、顔を見つめる。  互いの視線が交わり、息をのむ音が重なる。   「なんで、あんたが……」  あの男だった。あの卑劣な脅迫者が警察官なんて、どんな皮肉だろう。  一気に形勢が逆転したのを感じ、笑いが止まらない。 「あんたがねぇ……レイプも脅迫も犯罪だよね。バレたら懲戒免職だろうなぁ」  顔色を変える男に、こぼれんばかりの笑顔をむける。  今までの分、どうやって返してもらおうか。楽しみで仕方がない。 「初めてだな。お前が、笑うの……」  怖気きった顔に「あんたのその顔こそ初めてだよ」と心の中で呟く。  こんな顔をするなんて全然知らなかった。 「職務の一環として、泥酔していたお前に声を掛けた。それで、うっかり、一目ぼれしてしまった。…動画は実は撮ってない…存在しないんだ。…解放してやるよ。自由になれよ…」  真っ青になって、わなわなと唇を震わせている姿が、すごく可愛いと思った。  あの男を可愛いと思う日が来るなんて、考えたこともなかった。  ――今夜からは、あんたが抱かれる側だ。あんたの体を雌に変えてやる。 「仕事、何時に終わるの? いつものホテルで待ってる」  男は、目を見開いて顔をひきつらせた後、唇を噛みしめて俯いた。  

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