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stage.1 現在
形のよい彼の唇がゆっくりと弧を描く。
告げられ言葉は聞こえていたが、アスナの脳にはまるで届かない。
膝を付いたまま呆然と見上げれば、彼はいつもと変わりなくゆったりと微笑み返してきた。
相変わらず、嫌みなほどに整った顔だ。
ずっと共にいたのだからもう見飽きている筈なのに、今でも彼は美しかった。
「―――」
アスナの口から彼の名が零れる。
出会ってから何度、呼んだだろうか。
「アスナ。」
彼もアスナの名を呼ぶ。
何度、彼に名を呼ばれただろうか。耳に馴染んだ声で受け入れられない真実を口にする。
「アスナ。ほら、戦わなくちゃ。」
「何を言って―――」
未だに立ち直れないアスナの様子に、彼が困ったように首を傾げた。さらりと長い髪が一筋流れる。
銀の髪に白い肌、小さな顔に細い手足。
雪の精のような姿の彼だけど、その手がとても温かい事を知っている。
―――知っている筈だった。
彼は漆黒の得物を持ち直し、向きを変えると剣先を下へ向けた。アスナの左手のちょうど真上だ。
それが重力に従い落とされるのを、アスナはただ見ていた。
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