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stage.2 過去
アスナは勇者だ。
いつから、勇者なのか。何故、魔王を倒さねばならないのか―――理由は知らない。ただ前にある道を突き進み、敵を凪ぎ払うだけである。
―――などと、カッコつけてみても。
巷に溢れ返るたくさんの勇者候補の中のひとりでしかなく、現実は全く格好のつかないものだった。
何せ、負けてばかりでレベルは一向に上がらず、戦いを共にするパートナーさえいない。
今日も今日とて、目の前に出現した魔物を相手に戦いを挑み、当たり前に返り討ちに合い、結局は森の中へ逃げ込んでいたのだ。
「ぐっ―――!」
左足の傷の痛みに呻き、アスナはとうとう崩れた。振り返って後ろを確認したが、魔物は追ってきておらず、ホッと安堵の息が出る。
「ちっ―――、痛てぇ。」
木に凭れながら、左足の傷を確認していると、手元が陰りアスナの視界に靴が現れた。自分の履いている物とは違い、現れた靴はやたらと高そうだ。
「君、怪我?」
頭上から降ってきた柔らかな声に顔を上げると、靴と同様に、これまたキラキラと眩しいほどに輝く男がいた。アスナとそう歳は変わらないが、着ている品物は段違いに品が良さそうだ。
「ちょっと待ってな。」
そう言うと男は膝を付き、アスナの左足に手をかざした。途端に、パァッ―――と、男の手元が淡く光かる。
魔法だ。
「おまえ、魔法使い?」
「うん、そう。」
男の放つ淡い暖色系の光に照らされ、アスナの傷口はゆっくりふさがり始めた。
チラリと男を観察する。髪も肌も白く滑らかで、顔立ちはもちろん、全身から気品のようなものが滲み出ている。
―――貴族かもしれない。
「終わった。立ってみて。」
「へ?あ、ああ。」
男から急に話し掛けられ、観察していたのがバレたのではないかと少し焦る。男へ挙動不審に頷くと、アスナはゆっくりと立ち上がった。恐る恐る左足に体重を乗せてみるが、全く痛みはない。
「おっ、すっかり痛くねぇ。助かった。」
「どういたしまして。」
男はどこかの王子のように微笑み、アスナはまた惚けたように見つめ返した。
これが魔法使いのツキトとの出会いである。
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