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stage.3 過去
ぷかりぷかりと浮かんだ西の雲は、その色を白から橙へ変え始めていた。しかし、アスナは空を眺めるどころではない。
ただ今、魔物と対戦している真っ最中なのだ。
「もうちょっとだよ~。」
背後からかけられた気の抜けた応援の声に、怒りのゲージが上昇した。
魔物の放った炎を避けつつ振り返ると、ツキトがニマニマと笑いながら手を振ってくる。
「おまえも手伝えよ!」
「僕が倒してどうするんだよ。ほら、よそ見しない。」
「おわっ―――!」
魔物に横から突撃されて、アスナは派手に転んだ。口を出すなら、もっと早く教えて欲しい―――と、アスナが言っても、どうせいつものように言い負かされるだろう。
「怪我したら治してあげるから、ひとりで頑張んな。」
ツキトは上級の魔法使いらしい。
初心者勇者の相棒になってくれた上、援護へ回りアスナのレベル上げを手伝ってくれている。それはもう多大なる感謝をしているのだが、毎度こういう態度で腹が立つ。
ズンッ―――と、緑色の剣を突き立てると、魔物の動きが止まった。仕止めたらしい。
ほぅっと安堵の息が漏れる。
空気に溶けていく魔物を見送り、アスナは視線を横に動かした。後ろでは、ツキトが夕日を浴びて真っ赤に染まっている。
まるで苺味の飴のようだ。
甘そうに光って見えるツキトが、アスナへと近寄りながら満足そうに笑う。
「おつかれさま。怪我してないな。エライエライ。」
「うるせえよ。」
アスナが苛々と魔物の残した宝石を手に取ると、ピロロン―――と、音が鳴った。レベルが上がった事を知らせる音だ。
「おっ、やったな。ヘボ勇者、脱出おめでとう。」
「ありがとよっ。」
「今日はごちそうにしような。」
ツキトは上機嫌で微笑みながら、地図を広げて目を落とす。近くの街までの道を調べているのだ。
アスナも地図を覗こうとしたのだが、唐突に眼前へ現れた白い首筋に目が吸い寄せられた。
口の中にじわりと唾液がわき、ツキトの首筋から目が離せない。
真っ白で、とても―――。
―――ウマそう。
異常だろうという自覚はちゃんとあるのだが、その柔そうな白い肌に歯を立ててみたい―――と、思ってしまう。
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