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第7話

馬に乗り、街への道をひたすら走っていたら後方から俺を呼ぶ…ご主人様の怒気を孕んだ鋭い声が聞こえてきた。 「テュラ…待つんだ! テュラ!!」 解雇された俺に、どうして"待て"と言うんだ? どうして馬をとばしてまで俺の名前を呼んで引き止めるのか。 俺を解雇までしたのに…。 エルンの代わりとしてなら、他に…もっと居るだろ? 俺は小ぶりな馬の手綱を正規の道から外し、低い木の枝が邪魔になる様な方向に進路を切り替えた。 御主人様の馬は本人の体躯に合わせて大きいから、案外妨害になるかもと思ったんだ。現にさ… 「ええぃ…クソッ!」 御主人様の悪態が後方から聞こえる。 …それに雇用関係は終わったのに、つい癖でまだそう呼んでしまう…。 俺は思わず瞳を閉じて視線を落としてしまった。 そして、それは不慣れな場所では命取りの行為だと直ぐに思い知った。 前方の本来は川を渡していた橋はロープと木板の老朽化が激しく、落ちていたのだ。 俺はスピードに乗り過ぎており、距離的にも止まれない状態だった。 何とか馬は屋敷に戻さないと! 借りているし、この馬は高級なのだ!! 俺はその思いに駆られ何とか首の後ろにある印を撫でたが、突然馬が消えた事で川に勢い良く落ちてしまった。 「―~ぅあ!?」 「テュラ!!」 川…が思ったより、深い!? 足がスカる…! 逃走して、馬から落ちるなんて、最悪だ。 しかも、薄翅人は翅が邪魔して上手く泳げないんだよ…! 俺は上下構わず暴れ、結局水中で空気を放出してしまった。 ―でも…気を失う寸前…、腰に何かが巻き付き、力強く引き寄せられた気がした…。

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