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[きぬ]アホ男子な僕たち(1)

「あ、帰ってきた!」  玄関の戸の閉まる音を聞いて、ケンちゃんが、玄関まで出迎えに向かう。高野が戻ったということは、もう22時になる頃か。学内寮の共有スペースは暖房が効いていて、新学期を前に郷里から戻った連中が集まって普段より騒々しい。  バスの中でこっそり打った『心配ない。解決済!』の簡潔なメールが功を奏して、ケンちゃんは癇癪を起こすことなく僕らと接している。  ほらな、綿貫。友達は変な深追いしないだろう? 綿貫は、昨夜の光景を誤解したままであろう高野の帰宅に一瞬表情を曇らせた。でもきっと、高野は綿貫を問い質したりはしないはずだ。  共有リビングのローテーブルには、寮生が各地から持ち寄った帰省土産が所狭しと並び、バイキングビュッフェのようになっている。甘いもの、辛いもの、日持ちするもの、しないもの……。  着替えを済ませた高野が、テーブルの温泉饅頭の焼印を見て、声をあげて笑った。 「ねえ、なんで全国各地の名産品に紛れてここの温泉の饅頭まであるの?おかしいだろ」 「……あ、それ俺」  綿貫が恥ずかしそうに言う。 「手ぶらじゃ悪いかなと思って、さっき買った」  高野はますます笑いが止まらなくなって、ケンちゃんにクッションで顔を覆われてしまった。  それぞれが帰省中の出来事を話し、聞き、土産物に手を伸ばす。 「地元に帰るとさ、不思議と中学生レベルにまで遡って、馬鹿ばかり言ってるんだよな」 「あるねえ、それ。もう就職した奴もいるのに、集まると馬鹿なことばっかりだな」 「10回言うヤツとか?ピザだのみりんだの。あとあれ、手袋を反対から言って?とか」  高野と僕で帰省あるあるで盛り上がっていると、横に居た綿貫が聞き返した。 「……なにそれ知らない」 「え?知らない?? 小学生の戯言だけど。  じゃ、綿貫。『テブクロ』反対から言って?」 「…ろ、く、ぶ、て?」 「っしゃ!1、2、3、4、5、6!」  高野に頭を6発打たれた綿貫は戸惑って後退りした。 「な、なに? なんだよいきなり!」 「だって綿貫が ぶて って言ったんじゃないかぁ」 「へ? …ろ、く、ぶ、て? えええええ!」  くだらない遊びで盛り上がらないでください綿貫。そこで自慢げにしないでください高野。  まあ、こういうアホな乗りこそが友達の醍醐味なのだ。気の置けない関係って、こんな感じだよな。綿貫には身近ではなかったのかもしれないけれども。  小学生の頃は真っ直ぐ帰宅して家事、中学からはあの冷遇か。今まで足りなかった分の阿呆なネタを、山盛り綿貫に詰め込んでやろう。この寮にいる間は、僕達が存分に男子のアホさ加減を刷り込んでやる!

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