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[木綿]フリーハグ-3-

 どうしてこうなったかなんてことは、後で聞けばいい。  とにかく今すぐ、あの腹の立つ『万人にフレンドリーな衣笠』を封じなければ気が気じゃない! 何とかしてあいつの気を他の奴らから反らしたくて、食事前の脳味噌をフル稼働する。  そして俺は再び、ハグ待ちの列の最後尾に着いた。 「あれ? 綿貫2回目ー!」 「なぞなぞです」 「ふへ?」 「おじいちゃんとやる球技はなあんだ?」  型通りにハグ。今度はハグしたままの耳元に出題。 「おじいちゃんとやる球技はなあんだ?……だよ」  ハイ、時間切れ。 「じいちゃん……球技?……ぼーる……」  先程までとは違う、ハグはしていても上の空の衣笠。気もそぞろなのが傍目にもありありと判る。  ―――作戦成功!   俺はまた列の最後尾に。心ここにあらずな衣笠が、まだ続くハグの列を捌いていく。 「さ、答えは?」 「じ、じいちゃんとゲートボール!」 「ぶっぶーーー!」  ハグの姿勢で耳元に解答を告げる。 「正解は、ソフトボールでした」  ハイ、残念!  俺が離れた途端、ぶふっ! と噴き出す声がして、「祖父か!祖父と、か!」と独り言を言いながら笑っている。こら、声に出して言うな。  そしてもう一度列の最後尾へ。もう、とことん気を反らしてやるのだ! 「あれ? また来た!」 「第二問」 「え?」 「一緒に暮らしたくなるスポーツは?」 「え?……え?」  ハグの距離にも慣れてきた。 「一緒に暮らしたくなるスポーツだよ。じゃあまた」  列は大分短くなった。だから、シンキングタイムも僅少。 「……綿貫ぃ、降参!」  困り顔でハグ。 「正解はな」 「うん」 「相撲」 「……?」  ハイ、ごくろうさん!  三拍遅れて、脱力感溢れる爆笑が響いてきた。『住もう』かよ。下らない答えこそがなぞなぞの神髄だ。  昼休みも残り20分。ハグ部の活動ももう終わるだろう。振り向いて「食堂にいるから!」と伝え、その場を後にした。

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