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[木綿]フリーハグ-4-

 冷静になって考えた。  どさくさに紛れて5回もハグしてしまった……!  心臓が飛び出しそうな至近距離にも、回数を重ねたら少し慣れた。慣れたら少し欲が出てきて、もう一度あの距離で触れたいとか思えてきて焦った。寒いところに長居し過ぎて体が冷えたせいで、温かさが恋しいだけだ。早く暖かい建物の中に入ろう。  もうすぐクリスマス。学食にもツリーが飾られ、ランチメニューもチキンや星形に切った付け合わせが用意されている。日本は元々、八百万の神々が居る国だから宗教色の強い行事に寛容だ。クリスチャンじゃなくても、ノリで楽しんでしまうのだ。プレゼントやパーティの口実はいくらあってもいい。  ―――サンタさん、プレゼントは要らないから、願いを叶えてください。お願いだから、あの無防備な衣笠を守ってください。何でもかんでも引き寄せる、妙な吸引力を弱めてください。お願いします。  もう少しで午後の講義の予鈴が鳴る。  パタパタと衣笠が走ってくるのが見えた。時間もないし冷えただろうから、麺類にしようかな。なんて考えながら、片手を挙げて合図して、食券の券売機に並んだ。  駆けてきた黄色のダウンは速度を落として俺の後ろに並ぶ……と、思いきや、真正面から抱きついてきて、思わぬ勢いに半歩後退る。寒風に晒されたニットの帽子が俺の頬に擦り寄った。  なんだ!? さっきのハグより近く、力強い……。  焦点が合わないほどの超至近距離で、衣笠はクンクン鼻を鳴らし、呟いた。 「あー、綿貫だぁ。この匂い、落ち着くんだよ」  ―――俺は全然落ち着かないですけど?

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