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[きぬ]12月24日-3-

 出来れば僕の部屋での夕飯はご遠慮願いたい(先日のことを思い出してしまうから)。留守にしていた部屋は寒いから嫌だ、とかなんとか理由をつけて、綿貫の部屋に上がり込むことに成功した。綿貫は上機嫌で承諾した。  ひと足遅れて綿貫の部屋を開けると、部屋の真ん中に新しいコタツが鎮座している。  ……いつの間に買ったんだ?  いつも思うけど、綿貫って何気に金持ちだ。バイトしている訳でもないし、ケンちゃんみたいに投資で稼いでいるようにも見えないのに、ポンポン物が増えていく。 「まあ座った座った!」  なんて言いながら、綿貫はこれまた新調したらしいふかふかの座布団を寄越した。 「温泉地で半纏着てコタツでミカンか! 完璧だな! 流石は綿貫だ」 「クリスマスイブに骨付き肉にケーキだなんてバッチリじゃないか! やっぱり衣笠だ」  いや、僕のは貰い物ばっかりだけどな。 「明日の朝、またバイトなんだろ? 早く喰って寝ないとな。」  23時だというのに、こんなにモリモリ食べて大丈夫だろうか、という勢いでご馳走を次々平らげていく。ひょっとしたら、綿貫は夕飯を食べていなかったんじゃないだろうか。  クリスマスだから、と、サバランを2つお土産に持たされた。夏のシューアイスフィーバーの後、マスターが仕掛けたお奨めスイーツがサバランだ。サバランって、ケーキというよりパンだよな。作り方をググったら、玉子とバターたっぷりのパン“ブリオッシュ”に洋酒のシロップを吸わせて、ジャムを塗り、生クリームをあしらったらできるらしい。  酒に詳しくない僕等には、今日貰ったサバランのシロップが、ラムだかウイスキーだかブランデーだか判らず、ラムレーズンの味がするとか、ブランデーケーキの匂いだとか、ああだこうだ言いながら食べ続けた。  サンタクロースのGPS追跡サイトを開けて、僕らの町の上空を通る時間にスクリーンショットを撮ろうとしたのに、ことごとく失敗し、ゲラゲラ笑いあった。 。 。 。 。 。  綿貫のスマートフォンのアラームが鳴っている。 「ききききき衣笠っ!! 朝! 朝っ!!」   ……あさ? 7時!? 飛び起きて心臓がバクバクしてきた。いつの間にか二人して眠ってしまったのか。  窓の外は明るく、山の鳥たちがさえずる。  これも一種の朝チュンか? コタツと満腹と軽いアルコール。……条件は整い過ぎている。そりゃあそうだ、寝堕ちるに決まってる。  子供の頃から「コタツで寝たら風邪をひく」と散々怒られて来たけれど、分厚い半纏を着ていたからか、大丈夫みたい。喉はカラカラだけど。母親にはお見通しなのか、ママゾン便の半纏、おそるべし……! 「うがいしてから喰ってけ」  と、目の前にバナナと豆乳。 「仕事だろ? 空きっ腹で行ったら駄目だ。あと、BCAA配合のプロテイン…」 「いいです十分です!バナナいただきます!」    焦るのはバイトに行く僕だけでいい筈なのに、綿貫の方が慌てふためいて身支度を始めている。まあ落ち着けよ、お前の日課の筋トレメニューは時間重視じゃないだろう? コタツで寝ちゃったのは別にお前の所為じゃないし、風邪ひくリスクもお互い様だ。そのお節介、そっくりそのまま返してやりたいくらいだ。  でも、ここは居心地がいい。  ここでもう一度コタツに戻ってバナナを食べたら、きっと抜け出せなくなる。後ろ髪をひかれる思いを振り切るように立ち上がった。    子供の頃、クリスマスの朝は枕元に玩具があった。  今年のクリスマスは、バナナと豆乳、か。  予想外のことがあっても、ちゃんと僕の助けになる綿貫は凄い。たまにピントがずれてるけど、でもちゃんと僕の為に考えてることだってわかってるからなんだか絆される。  バイトが終わったら、綿貫の部屋に直行しよう。  昨日食べ尽くしたミカンを買って、潜り込む口実にしよう。  『コタツが目当てなんだろ?』って言いそうだよな。言われたら、取り敢えずそうだよと肯定しておくことにしよう。温まりに、コタツに当たりに行くのなら、冬の間ずっと居られる理由になるから。 <なんにもないクリスマス編おしまい>

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