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[きぬ]ごほうび-1-
大晦日の22時。鍵を開け、扉を開けると、いつになく静かだった。
そりゃあそうだ。
大学の敷地内にある寮で年を越す奴なんかいるものか。
健全な大学生なら、地元に帰るか、旅行に行くか、バイトに勤しむか、賑やかなところでカウントダウンに参加するだろう。
僕がバイトから戻ると、寮の管理人のおじさんでさえメモを残して帰宅した後だった。
『管理人は自宅で年越しします。戸締り、火の始末をお願いします。
人が少ないと源泉が熱くなるので、風呂の温度に気をつけてください。
腰が痛い私の代わりに、今年は綿貫君が共有部分の大掃除をしてくれました。
起こさずに失礼するので、後はよろしく。良いお年を。』
暖房で、ぬっくぬくのリビングは、大画面のテレビが点いたまま。
正面のソファで、肘掛けを枕にして、毛布を掛けられた綿貫が熟睡していた。
起こすには忍びない完全熟睡。
運べるかな? ……大の男を抱えて運ぶほどの力は僕には無いな。
第一、手が、身体が、冷え切っていて、触れたらそれだけで飛び起きるに決まってる。綿貫は部屋着を着ているので風呂は済んでいるのだろう。僕もまずは風呂か。
冷え切った自室へ運ぶより、ここの方が余程快適だろう。
ホテルの年越しイベントに出ずに山の上の寮に帰ると言ったら、絶対二人分より多いだろ?って量の食べ物を持たされた。サンドイッチに天ぷら、蕎麦に、気の早い搗きたての餅。テーブルに並べて、ひとまず風呂に行こう。
管理人さんの言う通り、源泉が注がれっ放しの風呂は異様に熱かった。書置きが無かったら、罰ゲームみたいな熱湯風呂に入ってしまうところだった……。勿体ないけど、水を注さないと入れない。
今年の仕舞い風呂か。一人きり、のびのび浮かび、辺りを見回す。
風呂椅子も、桶も、きれいに並べて伏せてある。
廊下も脱衣所も浴室も、一人で掃除したのかな……。頑張っちゃうからなあ、あいつは。
せっかくきれいにしたところを通るのが申し訳なくて、少し端をそそくさと移動した。
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