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[きぬ]ごほうび-2-

 リビングに戻ると、相変わらず綿貫はパーカーのフードを被ったまま、毛布に巻かれてソファを占拠していた。妙に左右対称で、何かに似ている。 「雪山で遭難して救助された人? いや、マトリョーシカだ。」  同じポーズでぐっすり眠っている綿貫を、ソファの背もたれ側に回ってしばらく見ていた。  空調に乗って、ふわりといつものボディソープの香りがした。大学生男子たるもの、もう少しオシャレ心があってもいいと思うのに、綿貫は頭までボディソープで一気に洗う。きっと身近に禿げた大人がいないのだ。危機感が足りない!  フリーハグで人の匂いに酔った時、この香りに助けられた。フリーハグ、また参加しようかな。あれはあれでいい経験だったし。息吸うタイミングだけ間違わなければ結構楽しい。ヤバいな、人肌恋しいのかな。  熟睡しているのを確認して、ソファの肘掛けから腕を伸ばし、マトリョーシカの頭をそっと抱え込む。……嫌じゃないんだよ。こうしているの。ドキドキするんじゃなくて、ほっとする感じ。  男同士で恋愛感情って、今一つピンと来なくて、高野達の様子をチラ見することもある。奇異な目で見る気はないよ、僕の知ってる恋とかと、同じものなのか気になるだけ。あいつらはちゃんとドキドキしてる恋人同士に見える。  僕と綿貫はどうなんだろう。まったり落ち着き過ぎて、ドキドキとは違う気がするんだよね。ほら、こうして腕を回しても、正面からハグしても、居心地がいいだけ。これなら、わざわざ何か変えなくてもいいじゃないか。友達のまんまの方が、ずっと一緒に居られるじゃないか。  こんなによく働く、気の利くヤツなのに、どうしてバイトに出ないんだろう。確か6月頃は面接用の履歴書を書いているのを見かけたのに。夏休みには、綿貫はバイト探しを辞めたようだ。  バイトしていなくても貧乏な訳でもない。電気鍋だのコタツだの、このところの家電の買い足しは綿貫の趣味のようなもので。だからてっきり正月は、お年玉掻き集めに実家に帰るのかと思っていたのに、帰らないみたいだし。……こいつんち、帰り辛いところなのかな?  カーテンが気持ちヨレヨレなのは、掃除ついでに洗ったからだろう。一人で済ませたのかなあ。カーテンなんか無視しちゃえばいいのに。  よく働くお利口な綿貫君のご褒美に、ほっぺにチューくらいはしてやろう。  オカマバーのようなノリで派手な音を立てて、唇を押し当てた。  ……驚いて起きるかと思ったけど、微動だにせず眠り続けている。  ちぇっ! つまんねーの! タヌキのくせにホントに熟睡しやがって。     

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