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[きぬ]経済格差とスーツ-1-

 久し振りの帰省。元日の午後に家に着き、その夜から何かと慌しく日にちだけが過ぎていった。  身長が伸びるのって、そんなに大騒ぎになるもんなの? 前に会った時から5センチほど伸びた僕の姿に母親は大はしゃぎ。母の妹(おばさんって呼ぶと怒るのだ)は、僕を地元のデートスポットのほぼ全部に引き回し、さんざん写真を撮った。傍目には『アラサー独身女性が若いボーイフレンドとデートなう!』に見える、自慢しちゃう!とやたらとツーショット写真を撮りまくった。……まあ、SNSにアップしたところで、僕は小さい頃から叔母に連れまわされていたから「あらあ、甥っ子君こんなに大きくなったの!」と、友人達からリプが来ておしまいだ。  母も叔母も、小柄で色白っていうだけで、実年齢より若く見える得な家系。本人の希望で車の運転も、出かけた先の諸費用も全部お任せで済む。払わなくていいんなら…と文句は言わず、ポケットに両手を突っ込んで全行程を付き合う。デートモードで勝手に調子に乗って腕を組まれるのは、いくら懐いてる叔母でも恥ずかしいので勘弁願いたい。  叔母孝行を終え、友人達と飯を食い、両親と話もし、編み物が趣味の母は今の僕の実寸を測りまくり、一通り義理は果たした。  案の定「もう少し居たらいいのに」と引き止められたけど、そろそろあちこち気になるから、と、大学のある温泉地に戻ってきたのは1月5日の夕方だった。  前回同様、自分の手荷物は最小限なのに、後から足された土産やら食べ物やらよく判らない紙袋で両手を満たし、駅に着くころにはかなりグロッキーな顔付きになっていた。  駅前から綿貫に電話したけど、電波の届かないところにあるか電源が……のメッセージを繰り返すだけだった。  そういえば、1月5日は、綿貫は親戚の集まりがあるって言ってた。あいつの家は東京って話だったよね。  快速特急なら二時間かからない距離の東京。日帰りだと思い込んでいたけれど、深夜になっても綿貫は帰ってこなかった。

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