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[きぬ]経済格差とスーツ-5-

 結局一日中バイトだけで切り盛りし、高野と鍵を閉めて、一緒に最終の路線バスで帰ることになった。  駅前のロータリーから山のてっぺんに行くバスは、元々一時間に一本しかない。屋外で待っているのも寒いから、コンビニにでも入って待つことにした。  バス乗り場とコンビニは、ロータリーを挟んだ真反対にある。観光客らしい買い出しの一団をやり過ごし、煌々と輝く駅前通りのコンビニを目指した。  歩道の脇ではコンビニおでんの幟が冬の夜風にはためいている。こんな北風の強い日は、早く店内に入らないと凍えてしまいそうだ。  揺れる幟の向こうに、グレーのダッフルコートが見えた。あのコート、知ってる……。  コンビニの外で、ダッフルコートのポケットに手を突っ込んで立っているのは、綿貫だ。  店内から出てきたスーツに薄手のキルティングコートを着込んだ男性からATMの紙袋を受け取ると、不躾にもその場で中身を確認して自分のコートのポケットに突っ込み、仕立ての良さそうなスーツを着た男性に向かって上目遣いでひとことふたこと声を掛けた。  スーツ野郎は、ちょっと笑って、綿貫の頭を撫でようとし、手を払われた。そして微妙な距離を開けたまま、スーツ野郎と綿貫は駅とは反対の方向に歩いて行ってしまった。 「今の……?」 「やっぱり……?」  高野と僕と、立ち尽くす。 「カバンもなにも持ってなかったけど、タヌキ、帰省じゃなかったっけ?」 「さあ。出掛けたところを見ていないから、わかんない。」 「終バス、乗らないんだよな? あっち向かったし」  ああそうか。駅と反対方向に向かうってことは、終バス、乗らないのか。  あいつ、寮には帰らないのか。   寒くて脳味噌がきちんと機能していない感じがする。  バスが来るまで35分。高野が食べ物を選んでいる間、立ち読みでもしていよう。  寮に着いたら風呂に入って、明日に備えてもう寝てしまおう。

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