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[きぬ]経済格差とスーツ-6-

「……衣笠、今日すごい顔してる。そんなに消耗するなら、冬休みの間は従業員宿舎に泊まったらいいんじゃない? メシも賄いで食べれば心配無いし」  午後2時に僕と入れ替わりシフトに入る高野が、エプロンを結びながら気の毒そうな顔をする。  閉店まで働いた昨夜は、寮に帰ってそのまま寝てしまった。知らないスーツ野郎と消えた綿貫が気になって熟睡できなくて、なんとなくうつらうつらしているうちに朝になり、開店準備の時間に間に合うバスに駆け込んだ。寝るだけのために山を登って降りるのは確かに馬鹿馬鹿しい。でも、隣の宿舎に寝泊まりするんじゃ、ダラダラ閉店まで店に居そうで嫌だ。勘弁して欲しい。  僕って、ひとりだと何にもやらないんだな。一人暮らししたら、すぐ身体を壊すだろう。今日は定時で上がって、帰ったら風呂でも入ろう。  従業員通用口を出て、海寄りの道に回り道すると、固まって騒いでいる昨日の大学生達を見かけた。温泉地には似つかわしくない若者の騒ぐ声が響いて、違和感しかない。うちの大学は実習だの実務だの、社会人の感覚が身に付いてる連中が多い。一般的な大学生って、みんなあんななのかよ。小柄な男子学生が羽交い絞めにされて、周りをぐるりと取り囲まれて大声で揶揄われている。  ……今時中学生だってあんな騒ぎ方しないぞ。あの子、可哀想に。  足早に騒ぎの横をすり抜ける。その一瞬に目に入った視覚情報に目を疑った。  図体のデッカイ奴らに囲まれて、無気力な眼をして後ろ手を取られているのは、よく知ってるグレーのダッフルコートを着た、僕の良く知ってる奴だった……! 「――綿貫? なに、してん、の?」    

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