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[木綿]経済格差とスーツ-1-
元旦に衣笠を見送ってから4日まで、ほぼ一人で休日を過ごした。
食べ物は色々と寮の冷蔵庫に溜め込んであって、しばらく出掛ける理由もない。5日は東京の実家の新年会に顔を出さなくてはいけない。……気が重い行事だ。ただの実家訪問とちょっと違う場所なので、学生とはいえ服装を整えなくてはいけない。入学式以来のスーツに、無理矢理袖を通した。
帰る、という言葉が全く当てはまらない。あそこは俺の家じゃないから。だって、住んだことが無い場所を、どうして自分の家だって思える?
物心ついたことからの母子家庭。バリバリフルタイムで働く母と俺は、親子というより一つのチームみたいだった。できる家事はこなし、家を守り、助け合う関係。隠し事は嫌いだからと、母は割と開けっぴろげに身の回りのことを俺に聞かせていたから、俺が中学に入ってすぐに母に再婚話が持ち上がった時も驚かなかったし、むしろ喜んだ。
子連れ同士の再婚で、母より10歳年上のお相手は仕事絡みの結構なお金持ち。死別した前妻との間に俺よりうんと年上の息子がいるが、もう家を出ていて、一緒に住むことはないらしい。
以前から母が相手の人をすごく好きなのは知っていた。その人からの申し出で、ちゃんと結婚して俺の籍も入れてくれるんだって。いい人じゃないか。
大学まで面倒見ると言ってくれた新しいお父さんにちょっと早めに甘えて、隣町にある大学付属中学に編入したいと申し出た。全寮制の中高一貫校。付属の大学へ、ほぼ全員が進学出来る。今まで家の事優先で諦めてきた部活動に参加したい! 部活に夢中になっても、ちゃんと大学に進める環境が素晴らしい、絶対俺にあってる。と、説き伏せた。
さも俺が犠牲になって部活を諦め、家事をこなしてきたかのような言い回しに気が引けたけれど、そこんとこはちょっと大袈裟に言ったんだ。
本当は別にやりたいスポーツがあるわけではなかった。
中学生なりにこの先の暮らしを想像したのだ。……新婚さんのところに、俺が居たら悪いじゃない?せっかくの新生活、お邪魔虫にはなりたくないじゃない? 母には幸せになってもらわなくちゃ困るんだ。
そうして、俺は母の再婚と同時に、中学1年の冬休み前に家を出た。みんな幸せになれるのは、こうするのが一番!と信じて。
その時の俺は、男子寮に中途編入するのがどんなに目立つ行為なのか、それで何が起きるのか、なんて、まるで考えもしなかった。
野郎ばかりの集まりが稀に暴走することを、俺は身をもって知ってしまったのだ。
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