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第268話

『生えてきた?』 「……」 『はーると、無視すんなよ。』 正確には無視ではなく声が出せないだけなのだが、電話越しなら同じ様なものか。 三条は読みかけの本を弄りながら長岡と電話をしていた。 「…ま、…り…した」 『ん?なんて?』 「……やっぱり秘密です。」 『なんだよ。』 しょうがないなと笑みを含んだ声。 耳に馴染む落ち着いたトーンにドキドキする。 ほぼ1年毎日の様に聴いている声なのに慣れないのは、そのトーンが恋人の甘いものだからだろうか。 電話越しなのに耳を擽る。 『じゃあ、本読んだ?』 「読みました! 最後のどんでん返しはずるいです。 もう1回最初から読みましたよ。」 『ははっ、分かる。 あれは確かにずるいよな。』 学校では出来ない、だけどもごく有り触れたなんてない事を話す。 そんな事がしあわせで、頬が緩んでしまう。

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