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第316話
「どれにするかな。」
「俺はなんでも…」
大きな身体を屈めて食器を眺める正宗さんは身長だけで目立っている。
隣に向けられる痛い位に感じる視線に、帽子を被れと言われた意味を悟った。
「…目立つだろ。
俺は毎日これだから慣れたけど、周りは視線が痛いらしい。
お、これなんてどうだ。」
「確かに視線が痛いですね…。」
身長だけじゃない。
整った顔もその一因だろう。
その証拠に、若い女性客が遠くからチラチラこちらを伺っている。
長岡が帽子を被った所で下から見えてしまう為に、自分が被れと言われたのか。
下からガン見してくる子供に苦笑が漏れた。
そんな様子にも当の本人はどこ吹く風。
飄々としている。
「あ、…」
「ん?
これ?」
見付けたのは長岡が自宅で使っているものの色違いのマグカップ。
長岡もそれに気が付いたらしい。
女々しい、気持ち悪いかと、不安な気持ちで伺うとこれにしようなと柔らかく微笑んでいる。
「じゃあ、これな。
あと箸はこれにしようか。」
「はい…っ!
ありがとうございます。」
家族客の多い楽しそうな店内の空気に似合わない雰囲気になんだかモゾモゾしてしまう。
照れるけど…嬉しい。
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