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第326話
テレビの音とドライヤーの風音、どれも聞き慣れた音の筈なのに特別なものの様に聞こえる。
単純で良かった
すげぇしあわせだ
暫く長岡に身を任せ大人しく座っていると乾いたのか温風が止まった。
「また痩せたか?」
「付かないだけです。
痩せてはいません。」
「ガリガリじゃねぇか。」
後ろから伸びてきた手に、捲られた腕は見慣れた貧相なもの。
そういう長岡だって細いじゃないかと言うと、腹を擽られた。
「食った分どこにいってんだよ。」
「擽ったい…っ、ははっ、駄目ですっ、くすぐちゃっ…ふはっ」
「おー、敏感。
脇か?
臍か?」
長岡の胸に寄っ掛かる三条は目尻に涙を溜め笑っている。
そんな無邪気な三条を、長岡は愛おしそうに見ていた。
どちらもそれには気が付かない。
だけど、きっとどちらも知っているやわらかい目。
「俺も風呂いってくるな。」
一頻りイチャ付くとぽんぽんと乾いた髪を数度触り風呂に入るかと長岡は重い腰を上げた。
もっと触っていたいが先に風呂を済ませた方が何かと都合が良い。
後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にした。
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