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第358話

「……、はい。」 少し間が空いてから小さな返事が聴こえた。 三条は背伸びをすると、バランスをとるため長岡の肩に手を添える。 自分からキスをしろと言ったくせに屈むことすらしない自分に、三条は僅かに首を右に傾けると、伏せられた睫毛が微かに震えた。 チュ 口端、もうそれは口ではないのではないかと思う場所にあたたかな体温を感じたのは本当に一瞬。 あー、良い 背伸び良い たまんねぇかも トイレでしかもジャージ姿でなんて色気の欠片もないかと思えば、恥ずかしそうに口元を隠すその姿もそそるものがある。 「また勉強、な。」 頬から耳へ手を滑らせ露にした耳に口を寄せるとわざとらしいリップ音をたててから身体を離した。 名残惜しが昼休みは案外短い。 鍵を開け、個室から一歩外へ出ると声、背中にがかかった。 「あの…」 その声に振り返ると、三条の爪先がジャージのポケットを突く。 コツ、 「あぁ。」 それが何を意味するのかすぐに理解出来た。 何時も自分がしているそれ。 恋人にしか見せない甘く優しい顔を引き締めトイレを後にした。

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