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第428話
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
玄関を出ると、どんよりとした雲が空を覆っている。
一応折り畳み傘をリュックに入れてきたが、せめてバス停迄は使わずに行きたい。
知らず知らずの内に三条の足取りは早くなる。
「あら、遥登くんお出掛け?
気を付けてね。」
「おはようございます。
行ってきます。」
家の前で花壇を弄っていたご近所さんに手をられ、風が肌寒くなってきた中を進む。
人気の少ない駅前。
何時ものバス停。
申し訳程度の風避けに入るが風の冷たさは変わらず。
風の当たらないバスの車内が恋しい。
本当はバスじゃない。
恋しいのは…
譲り受けたパスケースの擦れた角を撫でる。
恋しいのは、
やっとやって来たバスに乗り込み、恋しい人の元へ向かう。
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