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第429話

ポツリ、ポツリ、 ベランダを濡らす小さな音に外を見ると鈍空から雨粒が降りてきた。 もうすぐ遥登の乗ったバスが到着するというのに、なんとも言えないタイミングでの雨に玄関へと向かう。 部屋からも見える無人のバス停。 その停留所に着くと雨は粒を大きくしはじめた。 梅雨の風にアスファルトのにおいがまじる。 そうしているとすぐに目の前にバスが止まった。 下車する人はただ一人。 「ありがとうございました。 …あ、」 リュックに伸びていた三条の手がとまる。 携帯を弄るその人。 そして途端に振動したポケットの中。 『傘あるか?』 ぱちくりと三条の目が自分を捉えているのが見なくても解る。 長岡は携帯から目を離す事はしないが、それは何時何処で誰が見てるかわからないからだと三条も気が付いていた。 『お借りしても良いですか?』 震える手の中に頷くと傘を1つ停留所に置いて立ち上がる。 その後を傘を持って追い掛ける足音が心地良い。 『正宗さんと散歩嬉しいです。』 『俺も。』 パラパラ、パラパラ 傘の上を雨粒が転がる音も、それすら愛しい。

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