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第460話

車のドアを開けると胸一杯に潮風を吸い込む。 砂浜に下りるとそのにおいは更に濃くなった。 時間のせいか人気もない。 「海のにおい。」 「こんな時間だから手も繋げるな。」 甘い笑顔と繋がれた手にきゅんとする。 地平線に帰っていく太陽。 一瞬力強く輝いたその色を知っている。 こんな時間、男女の恋人なら一緒に夕食でも食べているのだろうか。 それとも綺麗なデートスポットで手を繋いで歩いているのだろうか。 俺は知るつもりもない だって そんなものより、俺はこの手のぬくもりの方が… 見上げた長岡は柔らかな表情で自分を見下ろしていた。 「正宗さん、ありがとうございます。 俺、しあわせです。」 「俺もしあわせです。」 三条は背伸びをすると、ちゅっと口に吸い付いた。 ちゃんと、口に。 柔らかくあたたかな唇に自分のそれを重ねる。 ただ、それだけの事が酷く愛おしい。 「どうした。 今日は積極的だな。」 「俺だって、たまには…頑張ります。」 夕日の沈んだ暗い砂浜で背ばかり大きな男が2人。 何をしているのだろう。 端から見ればどう映るのか。 そんなものは関係ない。 大切なものは目に見えるものだけじゃない。 それに気付かせてくれたこの人と、願う事はただ1つ。

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