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第487話
あついだけではない汗が伝う。
「学校生活はまったく問題ないです。
テスト順位も良いですし、生活態度も申し分ありません。
友達と楽しそうにしてる姿もよく見掛けますよ。」
母親と自分と、机を挟んで長岡と三者面談。
別の意味で心臓が五月蝿い。
「クラス最高点ばかりです。
特に文系の点数が良いですね。
私が受け持ってる教科なので頑張ってくれて嬉しい限りです。」
「先生の教え方が丁寧なんでしょうね。」
「いや、そんな事は…。
三条くんが頑張っているんですよ。」
どこを見ていても落ち着かない。
並列している机の上のプリントの活字を必死に目で追う。
目の前にいるのは、恋人ではない。
“担任の先生”だ。
解っている。
理解しているが、母親が横に座っているだけで緊張してしまう。
「お恥ずかしい話、勉強に関してはこの子の自主性に任せてて口出しはしてないんです。
成績もこの子が頑張ってくれた結果ですけど、先生の教え方のお陰でもありますよ。」
「ありがとうございます。
教師としても私個人としても本当に身に余る言葉です。」
嬉しそうな声に意識が戻る。
「三条、すごいな。
よく頑張りました。」
これは、正宗さんの言葉だ
長岡先生は“頑張りました”なんて言わない
「いえ、先生の授業解りやすいからです。
俺は、そんな…」
咄嗟に繕った言葉にしては上手く誤魔化せただろうか。
ドキドキと痛い位に早鐘を打つ胸にただ耐え続けた時間は後から見ればほんの20分程度だった。
それでも、永遠の様にすら思う。
帰り際、その日最後だった俺と母さんを廊下まで見送った先生の顔は教師のそれに戻っていたけれど俺は帰宅してからも暫くはドキドキが止まることがなかった。
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