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第517話
顔を真っ赤にした恋人が今日は帰りたくないなんて真面目な性格から考えられない様な事を口にしたから驚いた。
しかも、親御さんには事前に泊まるかもと伝えていたらしく連絡一本で了承を得る程の手際の良さ。
遥登の作ってくれたオムライスを2人で食べ終え、もう一度風呂に入りベッドの上でゴロゴロと贅沢な時間を味わう。
「犯人は、この人ですかね。
この俳優で怪しくないのが、怪しいです。」
「それは推理って言うのか。」
にこにこと動画を見る遥登と犯人当てをする。
遥登は怪しくないのが怪しいと言うがそれは一理ある。
確かに怪しい。
ふいに視界に入った細い手。
布団の上に投げ出された手を掴み、その細い指に口を付けた。
この痕は何時消えてしまうだろうか。
この子の一生を自分に縛り付けるにはあまりに儚く脆い。
「ぁ、正宗さん…」
「ん?」
「その痕…」
ちゅぅと揃えた指や手のひらに吸い付きながら三条に視線をやると被虐の色を滲ませた目が水分量を多くした。
慈愛、そんな言葉で纏めてしまうのは勿体ない程綺麗だ。
「嬉しいから、俺も…つけたいです。」
儚いからこそ、こんなにも大切で大事で愛しいのだろうか
「お願いしようか。」
「思いっきり噛んじゃいますよ…?」
「自分で着けたいって言ったのに弱気だな。
良いよ。
遥登につけられたい。」
「いただきます。」
ガリッと痛みが走ると同時に支配欲が溢れ出す。
止まる事を知らないそれが、遥登の足枷になれば良い。
首枷になって手枷になって、そうして離れられなくしたら満足出来るだろうか。
真っ赤噛み痕に三条はごちそうさまでしたと頭を下げた。
「満足したか?」
「えっと…、口も…なんて、」
「じゃあ、口開けて。」
もし、なんて考えたって未来の事は誰も知りはしない。
それなら、今、この瞬間の遥登を愛す。
今の遥登を大切に出来ずにいたら、本末転倒だ。
今日何度交わしたか分からないキスの合間に三条は小さく愛してますと呟いた。
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