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第523話

「あ、ちょっと待ってな。」 離れていく体温が何処か寂しい。 引き留めそうになった手を捕まれ、すぐ戻るとまた髪を撫でられた。 俺、子供みたいだな… でも、嬉しい 寝室へと消えて行く長岡を不思議に思いながらも、渇いた喉を冷たい麦茶で潤す。 8月最後の休日も夏らしく良い天気だ。 「遥登」 暫くして、名前を呼ばれ振り替えると何故かスーツを来た長岡が立っていた。 髪がセットされてないだけで学校でよく見る長岡だ。 「ネクタイピン、遥登が着けて。 最初は遥登に着けて欲しい。」 「はい。」 差し出されたピンを受けとると長岡のネクタイにそっと触れた。 シンプルだけど、ラインの綺麗なそれでネクタイを押さえ付ける。 綺麗に整った顔立ちを邪魔する事もなく、更に引き立てるそれに三条は長岡を見上げた。 「似合うか?」 「はい。 とっても。」 バイトして良かった そう思わずにはいられない。 そんな三条の柔軟な表情をもっと見たくて、長岡は顔にかかる髪を撫で付けた。 よりはっきりと見える表情はとても優しく自分のなにかを満たす。 国語教諭のくせにこの愛おしい気持ちを表す言葉を知らない。 慈愛、恋慕、愛執 どれも似ていて、どれも違う。 「正宗さん…顔、近いです、」 「近付けてんだよ。 もっと顔見たい。」 「恥ずかしいです。」 「口開けて。 キスしたい。」 昨日も数え切れない程したのに。 それでも、素直に口を薄く開けてしまう三条の口を長岡のそれが塞いだ。

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