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第528話

「…」 『…』 折角の三連休を自宅で勉強に費やすなんて少し勿体ないが、それに付き合ってくれる恋人がいるから贅沢だ。 真剣な顔は髪に邪魔されよく見えない。 時々顔を上げるが、タイミングが合わずにどれ位の時間が経ったのだろうか。 片耳に挿したイヤホンからも反対の耳からもあカリカリと紙の上を走るペンの音がやけに大きく聴こえる。 ふと手を止め通信画面の隅に表示されている時刻を確認すると、タイミング良く長岡と目が合った。 『…ん? どうした。 解らない問題か?』 「違います。 時間見ようと思ったんです。」 『そうか。 …悪いな。 国語以外なら教えられるからな。』 済まなそうな顔をする理由は解っている。 教師という立場上仕方がない事だし、それこそ公私混同なんて事はして欲しくない。 きっちり線を引かれた方が三条も楽だし、なにより人文科は得意だ。 「俺の成績知ってますよね。」 『ん。 そうだな。』 済まなそうな顔から三条の好きな笑顔に変わると、釣られて頬が緩む。 この人の色んな表情が見たい。 でも、どうせ同じ時間を過ごすのならこの顔が良い。 綺麗に整った顔が柔和になるこの瞬間が好きだ。 『今はなんの教科してんだ? すげぇ集中してたな。』 「数学です。 ひたすら練習問題解いてました。」 画面の向こうで長岡はマグカップに口を着けた。 自分とお揃いのそれ。 だけど今自分の傍らにあるのはそれとは違う。 早く会いたいな 正宗さんに触りたい… 『遥登。 何物足りなさそうな顔してんだよ。 煽んなって。』 「そんなんじゃありません…っ。 ただ、その…」 『その?』 「早く来週にならないかなって…」 『なんで?』 「テスト、早く終わってほしいですし…早くあい」 「兄ちゃん!おやつ買ってきた!」 階下からの声に長岡は更に顔を弾けさせた。 『ははっ、元気だな。 おやつ食ってこい。 俺も少し休憩すっかな。』 「はい。」

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