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第564話

ぐーぐーと腹の虫が昼飯を催促し始めた頃、女子生徒達が昼飯の買い出しに出掛けた。 その間も腹の虫を鳴かせながら各人割り振りを片付けていく。 換気と称して開けられた窓から入る風が気持ち良いと思うほど、教室内はあたたかくなっていた。 「ただいまー。 お昼買ってきたよ。」 「先生の分もあるよ。 食べよ。」 「ありがとう。」 「飯だーっ」 床に座って飯を食うなんて何年ぶりだろうか。 ワイワイと楽しそうな生徒に混じって昼飯を食べているとなんだか不思議な感覚に襲われる。 自分が学生時代と制服の着方も流行りも違うのに、そこに混じっている。 タイムスリップともまた違う。 懐かしいともまた違ったこの気持ち。 「それで、涙出てきてさ。 泣くほど笑ったの久しぶり。」 「えー、そんな面白いの? 帰ったら見てみる。」 「ガチおすすめ。」 きゃっきゃっと楽しそうな声を聞きながら2個目のおにぎりに目を伸ばす。 116円 財布から小銭を取り出すとカランと空き容器に入れた。 このシステムは画期的だ。 中央に置かれた昼飯の中から各々好きな物を選び、その金額を中央の容器に差し出す。 小銭がなければ容器の中から両替をして、最後は立て替えた生徒がその代金を受け取る。 誤魔化される心配のない関係だからこそ出来るシステムだった。 余った物は、じゃんけんで強制購入させられるらしい。 「先生は休みの日何してるんですか? やっぱり彼女とデート?」 「プライベートは秘密です。」 「えー、知りたい! 彼女いるでしょ。 可愛い系?綺麗系?」 色めき出す女子生徒に、三条は一所懸命頬袋におにぎりを詰め込みもぐもぐもぐもぐと口を動かしている。 吉田にからかわれぷいっと身体ごと反対を向くも、頬袋はぷっくりしたまま口を動かす。 「秘密の方が色々想像出来て楽しいだろ。」 「やらしー」 「あのなぁ。 どんな想像してるんだよ。」 笑いが出そうなのを堪えながら教師の顔をして言えば更に、もぐもぐと詰め込む。 からかい過ぎると拗ねるだろうか。 「先生の話は良いからしっかり食べなさい。 午後からもするんだろ?」 「えー、つまんないー。」 「はいはい。 先生はつまんなくありません。」 話を強制終了させると三条はちらりと此方を伺った。 もう話はおしまいとおにぎりにかじりつくと、やっと前を向き3個目のおにぎりに手を伸ばした。

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