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第579話

「さみぃ。」 「なんで海なんですか?」 「誰にも邪魔されないだろ。 現に誰もいねぇし。」 確かに目の前かな広がるのはだだっ広い海。 遠くに離島が見える。 天気こそ良いが風は冷たい。 コートとは言わずもなにか羽織り物がほしい寒さはだけど、頭がすっきりする。 「こんな寒い日に海来るなんてよっぽど中二拗らせたやつだけだろ。」 三条は目をぱちくりとさせると、ふにゃり顔を歪めた。 それを長岡が言うかと笑えば、長岡は綺麗に整った眉を寄せる。  「なに笑ってんだよ。」 「連れて来て中二って、可笑しくて。」 「ま、それもそうか。 おい、何時まで笑ってんだよ。 寒いし車ん中で食うか。 ほら、入りな。」 ツボにはいったのか中々笑い止まない遥登を促し車内に戻る。 必死に笑いを堪えようとするが中々とまってはくれない笑みに、長岡は三条の頭をぐりぐりと撫でた。 笑顔が良く似合う三条に長岡の表情も自然と緩む。 三条の笑いやっと治まった頃、長岡は昼飯に手を伸ばした。 たくさん握ったおにぎりはもはやどれに何が入っているかわからない。 それが逆に籤引きみたいでわくわくする。 「うめぇ。」 無邪気に笑う長岡に三条の頬も緩む。 三条もひとつ選ぶとぱくりとおにぎりを頬張る。 「うま。 明太子です。」 「これ遥登が作ったろ。 明太マヨうめぇな。」 にこにことおにぎりを頬張る三条とそれを見て優しく笑う長岡。 狭い車内にはあたたかな空気が充ちている。 緩みっぱなしの頬はそのままその空気に身を委ねる三条はその心地好さにすっかり安心しきっていた。 「弁当とも思ったんだけどな。 俺も少し忙しくて。 握り飯だけで悪いな。」 「すごい楽しいです。 美味しいし、これわくわくします。」 「そりゃ、良かった。」

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