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第581話
勃起が収まってからも膨れていた三条は次第に変わる景色にころころと表情を変えた。
何時見ても豊かな表情は飽きることがない。
穏やかな笑顔、子供の様な膨れっ面、淫靡なトロ顔。
色んな顔を隣で見てきた。
「綺麗ですね。」
「こっちは今が見頃だな。
あの辺りも紅葉したら出掛けるか?」
「それも良いですね。
みんな上ばっかり見て…正宗さん顔ガン見されそう。」
赤や黄色、色鮮やかに色着いた葉は風に吹かれさわさわと揺れている。
耳触りの良い声で笑う恋人を乗せてこのままドライブも捨てがたいが、何せその恋人の冬服がない。
何時までも自分の服という訳にも行かないだろう。
三条の楽しそうな声と、針葉樹の深い緑が鮮やかな色を締め空により映える。
「イガ落ちてましたね。
栗はいってたかな。」
「花より団子か。」
「へへ、甘いのは別腹ですよ。」
感受性の豊かな遥登と一緒にいると、ふとした季節の移り変わりも色鮮やかにそして新鮮に見える。
今まで、この世界がこんなに明るいものだと思った事はなかった。
気にする事すらしなかった。
それを幾つも年下の恋人が教えてくれた。
「じゃあ、栗のお菓子買って帰ろうか。
飯食ったら食おうな。
何食いたい?」
「栗羊羹が良いです。」
「渋いな。
でも、うん。
栗羊羹にしようか。」
お茶は俺が払う淹れますねと楽しそうな声を聴きながらハンドルをきる。
海から山へと車を走らせ、街へと向かった。
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