585 / 1273

第585話

『顔気を付けろ』 差し出されたメモ機能に疑問符が浮かんだ。 顔…? 『やらし』 短い文。 文ですらない、単語。 あ、え… 「窓側暑くねぇか。 クーラーの向き好きに変えて良いからな。」 「はい…大丈夫です。」 「良い天気だな。 クーラーなんて向こうじゃ考えらんねぇのに。」 「そう、ですね」 『かわい』 わざとだ… 顔、熱い どうしよう 『好き』 更に静かに言葉は続く。 『愛してる』 楽しそうな恋人の横顔を恨めしそうに見上げると、笑いを堪えている口許は僅かに緩んでいるがしっかりと教師の仮面を被ったまま。 きゅっと口を噛み締め意を決する。 ポケットから取り出したスマホをタップして、隣と同じ様に差し出した。 『俺も愛してます』 数秒の後、長岡の靴が三条の脚を掬った。 思わず大きく開いた脚に声が漏れる出そうになるのを寸前の所で飲み込む。 前方でバスガイドがガイドをはじめたと言うのに何をするのかと思えば、ほんのり赤くなった耳が太陽の光を浴びて明るく見える髪の隙間から見えた。 『やりたくなる』 旋毛を焼く太陽よりも長岡の言葉に三条は芯までもあつくさせた。 それでもこの修学旅行が終わるまでの4日間は我慢するしかない。 でも… バスガイドの話に耳を傾けながら修学旅行のしおりを広げた長岡の影でゆっくりとスーツを掴んだ。 どうか、バレませんように

ともだちにシェアしよう!