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第586話
一応の名目は県外体験学習なのだから、楽しいばかりではない。
残虐な事実も悲しい事実も隠す事なく語ってくれた語り部の老人。
壁一面のあの絵画。
きっと忘れる事はないだろう。
生徒達にとってこの機会が今後どう人生に投影されるかは分からない。
だけども、平成になってこの30年1度も戦争をした事がないその意味を知っているのといないのでは大きく違うだろう。
「わざわざお時間をつくっていただきありがとうございました。
貴重な体験になりました。」
「いいえ。
もう、私達も歳をとりました。
生きた声を伝えられる内に伝えたいんです。」
自分よりうんと小さな老人だが、自分よりうんと大きく見えた。
どういう思いで話しをしてくれたのかそれが痛い程に伝わってくる。
最後の生徒がバスに乗り込む迄手を降り続けてくれた老父にもう一度頭を下げるとバスは静かに動き出した。
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