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第595話

暗い室内には3人の寝息だけが響いていた。 枕元に置いておいた携帯の小さな振動で三条は覚醒する。 ん…、なんだ…… 『エレベーター前』 エレベーター前…? 時刻は4時を指そうとしている。 消灯になってもからも少し話をして日付が変わってから寝たはずなのに、どこかすっきりとした頭で意味を考えるよりも早くベッドを抜け出していた。 着の身着のまま、スマホだけを握り締め廊下へ出る。 部屋から出るなとは言われていない。 しかし部屋から抜け出したのがバレてしまえば教師達に叱られるだろう。 悪い事をしているという自覚にドキドキと心臓が痛い。 だけど、それよりも…。 もし見付かったら寝惚けて出た事にしよう で、鍵が開かないから担任の所に… 大丈夫 言い訳としては十分だ 緩くカーブになっている廊下を少し進むと人影が見え、身体が大きく震えた。 だが、それが見慣れたスウェットにシャツというラフな格好である事に気が付くと音をたてないように駆けていた。 早足で駆けると、人目を気にしながらも室内へと押し込まれる。 ふわりとかおる安心するにおい。 「起こしちまったか。」 「大丈夫です。 おはようございます。 正宗さん。」 「ん、はよ。 遥登。」 入り口で抱き締められ胸一杯に恋人のにおいを吸い込む。 体温も何もかも恋人のものだ。 「すごいドキドキしました。」 「悪かったな。 返りは送るから。」  まだ会って数分も経っていないのに帰りの話なんて寂しいと腕を回した背中できつく握り締めると顔がパッと離れていった。 我が儘を思ってしまった事がバレてしまったと罰が悪そうな顔をしてしまう三条に、長岡は眉を下げる。 「悪い、まだ会ったばっかりなのに体裁気にして。 嫌だよな。」 「そんな…っ」 一瞬触れ合う唇。 謝ってばかりの長岡が一瞬何時もの長岡になった。 自分だけじゃないと思えたその顔に安堵する自分もいる。 「ん…」 「もっかい」 啄むように幾度も口を触れ合わせぬくもりを確かめ合う。 愛しい人の体温に三条は素直に甘えた。

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