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第609話
連絡をいれるも既読にならず、向かってる間に付けば良いなと淡い期待も打ちのめされた。
あたたかなバスから出ると一変冷たい空気に鼻の奥が痛む。
長岡の部屋の前に立ちマフラーに顔を埋め、変化のない携帯画面を見ながら数分が経った。
合鍵貰ってるけど…
どうしよう
ここにいても目立つし変な噂たてられたら困るのは正宗さんだよな…
まだ1年生だった時、こうして外で待ってて体調を崩した事があった。
ずっと前の様な気がするが、たった1年しか経っていない。
すごく心配させてしまったその時の長岡を思い出しそっと鍵を差し込む。
カチャ
「おじゃまします…」
廊下と部屋を仕切るドアを開けると無人の室内は冷えきっている。
不在なら帰ろうかと思った時、寝室の扉が閉まっている事に気が付いた。
閉まってる時はよっぽど部屋が散らかってる時か寝てる時、もしくは行為をしてる時かのどれかだ。
本で散らかってはいるものの、それを隠す為に寝室を隔てるのであって前者ではない。
後者は自分以外となら可能性はあるがあの人はそんな人ではない。
根は真面目な人だ。
そっと扉をスライドさせるとゆっくり上下する布団が見えた。
傍に寄ると茶けた髪と少し顔が覗いている。
「…寝てる」
気疲れだろうか。
3泊4日ずっと気を張っていたのは容易に想像出来る。
何時見ても長岡先生の顔をしていた。
なんとか風呂に入り、やっと布団に入ったと言わんばかりの痕跡に苦笑が浮かぶ。
お疲れ様です
ゆっくり休んでください
洗いざらしの髪を撫でると、ん…と小さく声を漏らす恋人に愛おしさが込み上げる。
暫くその寝顔を堪能すると隣に潜り込んだ。
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