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第611話
「正宗さん、これお土産です。」
「土産?」
部屋があたたまるのはひとりの時よりずっと早く、名残惜しいがベッドを降りる。
身支度を整え、自分の分と三条の分とコーヒーにお湯を注いでいるとソファに座らせていた三条が傍らにやって来た。
そっと手渡されたそれは包装紙に水族館の名前が印刷されている。
遥登らしい
どうせ“長岡先生”ではなく“正宗さん”に、とか言うんだろうな
俺に金使わなくて良いのに
律儀って言うかなんて言うか
「同じ所に行って土産買ってくるか。」
「それは正宗さんにです。」
やっぱりか
わしゃわしゃと髪を撫でると上目遣いにこちらを伺う。
そんな恋人に自分はめっぽう甘い。
いや、甘いのはこの恋人の方か。
開けても良いかと問えばこくんと頷く。
カサッと音をたてて手のひらの上に出てきたのはボールペンだった。
沢山の魚がいたとキラキラと楽しそうに話す三条に自分迄楽しくなってくる。
青春を謳歌している恋人から分けてもらえるキラキラした春は随分前に自分から縁がなくなったと思っていた。
だけど、こうして話を聴いたりしているとまるで自分も青春真っ盛りの様に錯覚してしまう。
「ありがとな。
嬉しいよ。」
前髪を掻き上げ表れた額に口をくっ付けるとぽわっと空気が変わった。
清潔なにおいに色っぽさが混じる。
お、いけるか…?
後ろ手に土産を棚に置くと、三条を狭い調理スペースに乗せ脚の間に身体をいれ逃げ道を塞いだ。
恥ずかしがり俯く三条の腰を抱きながら、覗き込むように顔を近付ける。
逃げられない状況に三条の身体に力が入るのがわかる。
「そうだ、痕付けて欲しいんだっけ。」
「それは…」
「付けたい。
駄目か?」
「…あの……お願い、します」
「はは、ありがと。
お願いされるな。」
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